じゅて~む 第4夜 【食】
【あらすじ】
39歳の会社員・達太は、回転寿司屋で一目惚れした女に会うため、地元新潟を飛び出し、茨城にやってきた。
しかし、茨城の国道沿いにある焼き肉店に到着し、さあ女を誘って焼き肉だ!と女に電話をかけるも、女は新潟県にいるという。
達太は女の連絡先である携帯番号の頭の090を、029と勘違いしていたのだ。
達太を責めることはできない。
女の電話番号を達太に手渡したのは、肉屋の店主。しかも達太は電話番号とともに、店主からトンカツ4枚を手渡されていたのだから・・・。
090を029、つまりお肉と見間違えるのは当然のミステイクだったのだ。
達太ほどの豚肉好きが、トンカツ5枚と勘違いしなかっただけマシというもので、悪いのは肉屋の店主の方なのだ。
女と再会することはできるのか。
しかも達太は記憶喪失。女の顔すら覚えていないのであった。
起承転結ではなく達太の好きな言葉「弱肉強食」で展開される恋愛物語。今夜こそ、じゅて~むと囁けるのか。最終回「食」
お楽しみに。
じゅて~む。
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まずは自己紹介から。
俺は達太。39歳。会社員。
似ている有名人は、バッハと高木ブーと、20㎏増量した藤岡弘。
今は茨城のビジネスホテルだ。
前髪を切ろうと思う。国道沿いの焼き肉店で前髪が燃えたのだ。トントロが「強」の火力でスパークした。
今は燃えていない。安心して欲しい。
燃えて2分で消した。
隣で焼き肉を楽しむ家族連れから、冷麺を拝借したのだ。もちろん誠実にお願いした。
冷麺に前髪を浸し、消火する作戦だ。
作戦通り、俺は冷麺に顔を浸けた。しかし作戦通りにゆかない。
作戦とはそういうものだ。目当ての女が茨城にいないこと然り。
冷麺に顔を浸けたまでは良かったのだが、作戦外にも、そのまま汁も麺も、この口が吸いこんでしまった。
おそらく俺の口は、俺の脳からの命令を無視し、俺の腹の願いを叶えたのであろう。
ならば仕方ない。
作戦としては大成功だろう。俺の前髪だけでいいんだ燃えるのは。焼き肉ソナタが潰れないことが一番大切だ。
しかし。隣の家族連れの子供は泣いていたな。
悪いことをした。
焼き肉ソナタ死守という大衆の正義を貫いたは良いが、少し心にひっかかる。
だが、あれは本当に家族連れだったか?
おばさんらしき人間が3名いた気がする。単なる焼き肉の集まりか。
だとすると子供は、冷麺や俺ではなく、もっと大きな悩みで泣いていたのかもしれないな。
明日には地元・新潟へ帰る。
女に会いに。
茨城にも女に会いにきた。
何人も女がいるわけではない。
俺が勝手に移動をしているだけだ。
女は、昨日電話で話した感じでは美女だ。
明日、新潟へ戻るなり、焼き肉店の駐車場から女に電話をする。
「もしもし。助けてくれて、助かったよ。」
またこの間抜けな挨拶をするのか。
考えても仕方ない。恋愛とは本当に面倒だ。
俺は前髪にハサミを入れる。
燃えて弱くなった前髪がパラパラと風呂場に落ちる。
髪?いやこれは灰だ。
今日はもうヨーグルトを食べて、眠ろう。ヨーグルトはいい。腹にいい。
翌朝。
ヨーグルトのおかげで腹の調子はいい。
腹からぶら下がる両足も、さあ女に会いに行くんだと張り切っているように見える。
腹の左上にある部分も、ときめいている。顔も知らない女に。バカな。
ちなみに。俺の推しは蓮舫。
政治的な意味合いの推しではない。
女としての推しだ。
ショートカットの蓮舫はもちろん、俺くらいになると、色んな髪型の蓮舫を想像できる。
ボブの蓮舫は、男ならば全員が想像できるだろう。似合う。
セミロングは想像しづらいかもしれない。
だが、そのしっくりこない蓮舫に、髪ゴムを手渡してみろ。
ポニーテールの蓮舫がやってくるだろう?
ショートカットの蓮舫にはない、健康さが加わる。
蓮舫にしては少々おしゃべりかもしれないな、ポニーテールにすることで。だが男ならば受け止めろ。
ポロシャツやTシャツも着こなすかもしれないとの希望を抱き、キャピつく蓮舫を受け止めろ。
ちなみに、蓮舫に手渡すのは髪ゴムだ。シュシュは渡してはならない。
金髪の蓮舫も、是非、暇な水曜あたりの夜に想像を、頼む。贅沢な水曜になる。
そして俺は茨城を出る。
ホテルのフロントで、朝食ヴァイキングをやっていないかと尋ねたところ、どのスタッフに尋ねても、やっていないとの回答しか得られなかった。
朝食ビュッフェも?と尋ね方を工夫しても、やっていないとの回答だった。
どうやら粘っても無理らしい。
俺は6人のスタッフに尋ねて、ホテルを後にした。
パン屋が目にとまる。
しかしパンでは、俺の昨夜ヨーグルトでリフレッシュされた腹は満足しないだろう。
満足させるには、3000円ほど使ってしまうかもしれない。それはナンセンス。パン屋で3000円。
俺は高速に乗る。
女の顔を思い浮かべる。知りもしない女の顔。
どう想像するかって?
400グラムのステーキや、麻婆麺の器で顔が隠れてしまっている状態を想像するんだ。顔を知らなくても想像できる。これも立派な恋愛だ。
パーキングに立ち寄った俺は、もつ煮を券売機で注文する。
だが。
半券を捨てる。
なぜだ。
食べたら最後、女に会えない気がする。
この腹の呻きを埋めようと、俺は麦茶の500ミリペットボトルを買い、飲み干す。
再び車を走らす。
しかし麦茶が、トイレを促す。
俺は再びパーキングへ。
ついでにフランクフルトと豚串をテイクアウト。
串ばっかりだなと苦笑しつつ、口元へ。
そのとき!小学生が俺のフランクフルトと豚串を指さし、「俺も食いたい」と喚いた。
俺は、彼に、プレゼントした。
なぜ。
彼の親御さんは俺に感謝を示した。
だが俺はそんなもの欲していない俺はフランクと豚串を食べてしまっては、俺の恋愛も片付いてしまうと、俺は本能的に悟ったのだ。
だって「弱肉強食」に乗っ取って、物語は進むのだろう?
俺が、今回、何かを食べたら、この恋愛は終わりを迎えるんじゃないか?
これは災難だ。俺に食わせないなんて。恋愛面倒だ。
俺はこの先のパーキングのB級グルメを、そばうどんを、
そして高速降りてからの牛丼チェーン、カレーチェーン、定食屋、ラーメン屋を、やり過ごせるだろうか。
誘惑が多すぎる。
無理だ。
顔も知らない女だぞ?
俺の32皿の寿司を真似て平らげた女だぞ?
その女のために、そばうどんフランク定食牛丼ラーメンを俺が、逃す?
俺は高速を飛ばす。
次のパーキングには、特大肉まんがある気がする。
ぶっかけ蕎麦すら気になる。
俺はトイレに寄り、再び高速を走る。
女に会いたいか、もうよくわからない。
しかし、こんなにグルメの機会を我慢するということは、会いたいのだ。
俺はやっと新潟に辿り着き、インターを降りる。20時か。
女に電話をする。
女はなんと夕食を既に済ましていた。
しかし俺はめげずに続ける。
「焼き肉は難しいとして、定食屋で、何か一緒に食べませんか。助けてもらって、助かったお礼に。」
無事に、俺と女は、出会えた。
女は焼き魚定食を頼み、俺は麻婆ナス&ラーメンのセットを頼む。
俺の物が先に運ばれてきた。
だが、俺は食べない。
俺が食べたら、物語は終わる。
なんとなく、わかる。
俺は、女が美味しそうに焼き魚を頬張る様を見たい。
じゅて~む。と囁けなくても、いい。
女が美味しそうに食べることが重要だ。
お。食った、
しかし、女が食べたのは小鉢の切干大根。
焼き魚を食いたまえよ。
んじゃ俺も待つ必要あるか。
じゅて~む。
麻婆ナスを食べた。
【完】
※この物語は恋愛小説ではありますが、「起承転結」ではなく「弱肉強食」にのっとり進められます都合で、「食」がまっとうされました時点で完結でございます。
主人公の達太が麻婆ナスをまっとうされました時点で、女の返答関わらず完結となります。どうかご理解を。
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