じゅて~む 第3夜 【強】












【あらすじ】


高木ブー氏にそっくりの青年・達太は、回転寿司屋で美女に一目惚れをしてしまう。


しかし、久々の恋愛で達太は混乱したのか何なのか、カウンター下に体を捻じ込み、そして再びカウンターから這い出る際に、頭を強打し、気を失ってしまう。


そして目覚めた達太が居たのは、なんと、肉屋の自宅部分。


気を失っていた達太が「肉、肉、中田精肉店、」と繰り返し、周囲の「中田精肉店さんの息子さん?」との質問に、コクコク頷いたため、運ばれてきたのだった。


しかも達太は記憶喪失になっていて、一目惚れした美女のことはすっかり忘れており・・・。


せっかくの恋愛小説だというのに。




起承転結ではなく、主人公達太の好きな言葉「弱肉強食」にのっとり展開する物語、今夜は「強」


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肉屋の主人に、電話番号の書かれたメモを一切れ、手渡された。


それにトンカツを4枚。




2枚は自分で頂く。


wカツカレーにするか、wカツ丼にするか。wカツ定食にするか。


2枚は疲れるな。いちいち、wと銘打つのが面倒だ。


そして。あとの2枚は誰かに手渡さなければならない気がする。




それよりこの電話番号だ。


俺を肉屋の息子として、肉屋に送り届けてくれた人物。


勘違いとはいえ、素晴らしい体験を俺に与えた。


俺は肉屋の布団で一休みできたのだ。


肉屋の布団、肉屋のフェイスタオル、肉屋の風呂場。肉屋の廊下!


うっとりする響きだ。


硬派な俺が肉屋に婿入りしても仕方がない。




だが俺はいつでも冷静だ。感謝こそすれ、関わってはならない人物も世にはいる。もちろん、肉屋のことではない。肉屋にはどんどん関われ!




俺を助けた人物。


090ー××××ー××××




090??


何県だ。


俺の住む新潟は025だ。


では他県か。ならばトンカツ2枚は手渡せない。


俺にトンカツ4枚食えというのか。お安い御用だ。


今、せっかくだから揚げたてを頂戴しようと早速1枚食べた。あと3枚。




090は何県だったか。思い出せない。


・・・思いだした。茨城県だ。




俺は茨城へ向かう。


女に会いに。


肉屋はその人物が女だとは述べていない。だが女だ。文字が美しかった。文字から薔薇の香りがした。


トンカツの匂いをすり抜けて、薔薇の香りがしたのだ。




茨城へ向かう道中は、暇だった。


女にふさわしい男になることに、道中を費やすのもありだ。


念のためだ。女の機嫌をとるのは面倒だ。ならば女に有無を言わさぬ男になるのが手っ取り早い。


やはり「強さ」か。




茨城へ向かう車中で培える「強さ」なんてあるか?


ほぼ、無い。


だが諦めることは猿でもできる。俺は探す。「強」の文字を。




すぐ見つかった。


冷暖房の「強」だ。


俺は冷房を「強」にする。


寒い。とても寒い。トンカツがあることを思い出し、食べたが、寒い。


だが「強」を続ける。息が白い。




パーキングへ一旦入り、麻婆麺を食べる。しっかり温まった。




そして30分走ったころ。


再び、寒さが俺を襲う。


加えて眠気まで。


これは映画でいう死を意味する。


あくまで映画の中だ。


日常では寒くて眠くても、人は死なない。


悲しい事に、秋冬は寒いし眠い。そして人はそれでも元気だ。




だが寒い。もう駄目だ・・・冷房を「弱」にしよう。


と俺が諦めかけたとき、「暖房」の文字が目に入る。


俺はニヤリを笑う。


ニヤニヤしながら俺は「暖房」の「強」に切り替える。



10分後。寒くなくなってきた。


20分後、暑くなってきた。


30分後、汗が止まらない。




しめた!


俺は女に会う前に、藤岡弘に似ている青年に様変わりするだろう。


汗をかいて痩せて。実は俺は、30㎏ダイエットすれば藤岡弘だ。


現在39歳だが構わない。


男という生き物に、若さは必要ない。


もちろん女にも、若さは必要ない。


若さが必要なのは子供と子犬だけだ。




俺は冷房の「強」と、暖房の「強」とを交互に使いこなし、茨城へ辿り着いた。


強い男になっていた十分に。女は惚れるに違いない。




女の携帯を鳴らす。090・・・。


は?


携帯。喉元に引っかかるものがあるが、ただのトンカツの食いすぎだろう。




女が出る。


「もしもし。助けてくれて、助かったよ。宮村達太だ。お礼がしたい。今、茨城の国道沿いにある『焼き肉ソナタ』の駐車場だ。君に会いに茨城の焼き肉屋に来た。」



女という生き物は、いつの時代も男を翻弄する。


女はなんと、新潟県にいるという。


バカな。


では焼き肉ソナタは一人で楽しむしかないのか。


では一人で楽しむか。




俺は火力を「強」にする。


「強」に設定慣れしてしまった。もう後戻りはできないだろう。すべて「強」で焼く。


トントロの脂身に「強」の火が燃え移り、火柱ができ、俺の前髪はチチチと焼けた。


楽しんだ。




女が茨城にいなかった。


どこにいるんだ女は。


新潟にいてくれれば話は早いんだが。


電話では新潟県にいると女は言っていたが。




茨城の夜。




ふと電話帳に目をやる。


茨城の電話番号の数々。


029、029。


肉が食いたくなる市外局番だ。


090では無い。



次回は最終回。「食」へ続く。


ほぼ恋の相手と過ごしていない達太、どうなる、その恋愛。


 







じゅて~む

【あらすじ】 N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、 架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。 そして、達太の外見は、39歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。

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