じゅて~む 推理小説編 第一夜【海】
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太。
月曜~金曜は、39歳の会社員。
しかし土日。エッセイストとして羽化する。金曜の夜に、いったん「さなぎ」となり、土曜の朝に羽化してエッセイストとなる仕組みだ。
誰もがこんなこと、知らなかっただろう。色々あるんだ。
もちろん、さなぎ時代も、まるまるしている。
おっと、説明を忘れていたが、俺は七福神の中では布袋尊に一番似ている。
ドリフターズの中では高木ブー。
ところで、あらすじに「エッセイ連載にチャレンジ」など書かれているし、俺すら今、エッセイストとして土曜の明け方に羽化している旨を述べたが、
9月の四連休に、四日間かけて「起承転結」にのっとり恋愛小説を書いたところ好評だったように思う。
ミヤムラーや、タツタハルキストなる信者も生まれた。
だから、9月の最後の二連休には推理小説でもやっちまおうかと思う。
「起承転結」ならぬ、2日間だし「海豚」はどうだ。
俺の好きな言葉だ。
最高ではないか。海を見ながら、浜辺で豚串を頂く。
幼い頃は「海豚」の意味が解らなかった。大人になると文字から、予測ができるようになる。
海を見ながら豚串を食うという意味だとわかる。
「豚」には豚丼・豚肉・豚串の意味合いがあるが、豚に「海」がつくと、豚丼は難しくなる。丼をどこに返すか問題が発生するからだ。
いくら丼が好きな俺でも、手首が疲れるのは困る。
では始める。推理小説じゅて~む、「海」
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俺は海に来た。
何故って、夏だから。
水着は要らない。
海には入らない。
俺の腹が、すでに水着だ。水に濡れても構わない。防水しないという潔さ。
そして、海に入ることすら予定していない。
俺は、波にさらわれ、ロシアの浜に打ちあげられるのが苦手なのだ。
そうやって海辺で、この腹を焼いていたところ、悲鳴が聞こえた。
「僕のかき氷がないよー」
むくりと起き上がる。
俺の出番か。
こう見えて、俺は会社員であり、エッセイストであり、気持ちは探偵だ。
「どうされましたか」
俺は悲鳴の主に問う。
「僕のかき氷が、何者かに盗まれたんだ。」
なるほど。
バカンス中の俺に、依頼が舞い込んだってわけか。
バカンス中ではないが酔いしれてみる。お勧めする。気の向かない作業に取り掛かるとき、バカンス中だと思うとダンディズムに火が点き、やる気が沸く。
「ねえ君。盗まれたのは、何味のかき氷だい?」
「メロン!」
メロン。
メロン?
なかなかに解決し甲斐のある・・・。
「動くな!ここにいる全員が容疑者だ・・・・。浜辺という密室だ。」
俺は、浜辺にいる全員のアリバイを聞く必要がある。
しかし浜辺の全員が、海遊びに興じている。動きを止めるものは皆無。
「動くな!」
もう一度警鐘を鳴らすが、全員が動いている。それもすごいことだ。
しぶしぶ俺は、自分が動く。
そして、一人一人に、口を開けてもらい、ベロの色をチェックさせてもらうべく、浜辺を練り歩く。
なぜベロの色をチェックするかは、今はまだ言えない。犯人にこちらの手の内を明かすわけにはいかない。
「皆さーーーん。口を、大きく開けて下さ~い。」
誰も口を開けない、なぜだ。
砂に、この短い足をとられながらも俺は練り歩き続ける。
「さあ恥ずかしがらずに、僕に続いて。じゅて~む!」
「じゅて~む!」
「じゅて~む!」
「じゅて~む!」
「じゅて~む!」
誰も口を開けない。
かき氷を盗み食った犯人は、一体何が目的なのか?
動機が一切見当たらない。かき氷は満腹感ゼロ、それはつまり動機がゼロ。
つまり。
愉快犯。
一番やっかいだ。
「じゅて~む!」
「じゅて~む!」
「じゅて~む!」
ちくしょう。口を開け。
こいつらは、遊びに夢中で俺の呼びかけに応じないのか。
それとも呼びかけに応じているが「む」で締めるため、口を閉じてしまったか。
それともまさか。俺が見えない?
こんなに目立つ容姿なのに?!
それとも。俺が心底からかき氷を食べ物として軽蔑していることが、バレているのか?
浜辺にいる全員にバレるなんてあるか?
敵の罠か?
じゅて~む
じゅて~む
大きく口を開けて、じゅて~む!
【最終話「豚」に続く!】
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