じゅて~む エッセイ編 第24夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
スーパー銭湯に来た。
風呂に入りたいわけではない。
目的がある。
サウナで痩せる。
サウナなんて久しぶりだ。幼い頃、親戚のおじさんに連れられて入って以来だ。
しかし。
「サウナが先か、水風呂が先か。」
俺は銭湯の入り口で立ち尽くす。
堂々巡りの議題に頭を抱える。
しかし。銭湯の入り口で頭なんて実際に抱えてみろ。
洗い場でもないところでシャンプーを始めたと心配されてしまう。
だから俺はとりあえず、腹を抱える。重たいが仕方ない。
「ニワトリが先か、卵が先か。」
「サウナが先か、水風呂が先か。」
サウナを利用する際に、誰もが一度は悩むんじゃないか?
俺は、迷い箸は絶対にしない。行儀がいいのだ。
迷ったら、迷い箸のスピードですべてのおかずを口に運べば良いだけのこと。
その俺が今、迷っている。
苦手なものからやっつけるか。好物からやっつけるか。
敵からやっつけるか。味方からやっつけるか。
サウナは苦手だ。蒸されているような気持ちになり、蒸し物といえばシュウマイと思い、シュウマイを食うか?いやせっかくの中華だ麻婆麺にしよう・・・と思い立つも、それから体を洗ったり、服を着たり、車を走らせたり、それからでないと中華料理屋に飛び込めない。サウナの悪いところだ。
しかも、せっかく着た服が後ろ前だった場合、どうする?
ワンクッションどころか、中華まで何クッションもある。クッションは多いと良くない。ソファがクッションで埋まってしまう。
サウナが苦手という話だ。
一方、水風呂。
入ったことはないが、風呂と銘打つからには、温かいに違いない。
気持ち良さそうではないか。
俺の好物に成り得る。
さて、苦手からやっつけるか、好物からやっつけるか。
全部後回しにしても良いのだが、明日、健診があるのだ。
だから一瞬にして痩せる必要がある。一夜漬けならぬ、一夜干しだ。わかるか、この冗談が。
達太の一夜干しだ。
おや。
はて。
自己紹介か。
俺は達太。39歳、会社員。
健康年齢は65歳。
男らしく、グルメらしく、ほんじゃまかの石塚さんのそっくりさんらしく、食生活を営んでいたため、様々な数値が高い。
3歩進んで息切れだ。
よって、65歳。定年間近だ。年度末には壮大な送迎会が催されるだろう。
俺は焼き肉屋がいい。
だがきっと許されない。もっとパーティのような会になる。賞状を受け渡すにふさわしい会場・・・。
花束をもらうだろう。30代の女性社員か、会長か、部長から。
万一、30代の女性社員からだった場合、気まずい。
うちには30代の女性社員は、おそらく2人。
うち2人が俺の同期だ。歳も一緒だ。56年生まれだ。
彼女らは「宮村さん40年間お疲れ様でした。」と言って花束をくれるだろう。
花束を渡しながら、俺のどんよりした目を見て「ありがとう」と言う俺のぶ厚い唇を見て、ハッとするだろう。
なんで同い年で一緒に入社したのに、もう定年なの???
と。
だから女は面倒臭い。
男の生き様に口出しはするな。
だが女を安心させるのも男の仕事。
船として大海原に出た男を、港で待ち安心させるのが女だが、それも男の仕事。
同い年の彼女らが花束の係になったときのため。
その万一のために、紳士である俺は、痩せて健診で62歳を叩き出し、定年のパーティーを3年後に先送りする。
そろそろ選ぶときが来たな。
「ニワトリが先か。卵が先か。」
実はこの議題には答えがある。
親子丼など作るから、そんな悩みが発生する。
カツ丼にすれば良い。
「カツを揚げるのが先。それから卵とじに。」
サウナが先か、水風呂が先か、には答えが無い。
自由だ。
俺はスーパー銭湯の中を練り歩き、迷いつつも、迷わず水風呂に浸かる。
冷たくてびっくりした。
風呂と銘打つには温かいはずが。
体が冷えては風邪をひいてしまい、健診で70歳を叩き出すかもしれない。
俺は迅速かつ的確に、水風呂の栓を抜く。
徐々に水位が下がる。俺の腹の半分まで来た。
俺は思い立ち、立ち上がる。
水位は俺の太ももあたりだ。冷えも幾らかマシになってきた。
水風呂は苦手だ。寒いな。
さて、これからサウナで痩せるとするか。そしてシュウマイを求め、中華料理屋へ行き、麻婆麺か、麻婆飯か。
健診結果が楽しみな、食欲の秋。
俺という芸術の秋。
じゅて~む
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