じゅて~む エッセイ編 第26夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
俺は達太。
39歳の、平凡な、いたって普通の会社員だ。
昼にカツ丼を食べ、心に火が点き、夜にカツカレーを食べる、つまらない男だ。
見てくれは、高木ブーそのもの。
だが、ジャムおじさんにも似ているから不思議だ。
こんな俺も、恋人を募集中だ。
誰でも良い。
恋愛は面倒だ。どうせ面倒なのだから、相手は誰でもいいのだ。
俺が紳士で男前ならば、その恋人も当然輝く。俺がステップアップすれば良いだけのこと。
そうやって募集中の気持ちを持って、歩道を練り歩いていたときのこと。
遠くから
「マーボー、マーボー・・・。」
と。俺を呼ぶ声がした。
女か?
マーボー、つまり麻婆丼?
いや。麻婆麺。
女、俺に何を言いたい。
麻婆、麻婆、と繰り返す声は次第に近づいてくる。
近づくにつれ、俺は耳を疑った。
「マーボー、ピーポー・・・」
女は、麻婆麻婆と繰り返すのを辞め、麻婆ピーポーと俺に訴えてきたのだ。
なんという女だ。
パーティーピーポーなんて俺は嫌いだ。それを感じ取り、俺に好かれようと自身を「麻婆ピーポー」と卑下しているのか。
そんな引け目を感じるな。
「麻婆ピーポー」だっていいじゃないか。
俺も、カツ丼やカツカレーや、牛丼や、チャーシュー麺が存在しなければ「麻婆ピーポー」になっていたかもしれないんだ。
俺は麻婆ピーポー予備軍なんだ。
俺は顔も知らぬ女に好意を抱いた。
しかし。
次の瞬間、「マーボー、ピーポー」と繰り返していた女が、「ピーポー、ピーポー」と繰り返しだした。
向こうから救急車がやってくる。
俺は歩道を練り歩くことを中断し、歩道の隅へ。
救急車はノロノロと俺の前を通り過ぎる。マーボー、マーボーと鳴らしながら。
俺は麻婆麺が食べたくなった。
麻婆丼でも良い。
しかし、俺の耳に、また別の女の声が届く。
モテるな今夜は。
「カンカンカンカン、バンサンカン。
焼き肉焼いても家焼くな。」
また別の女から焼き肉の誘いのようだ。
いいだろう。たまには女と焼き肉も。
しかし、女が俺に近づくにつれ「カンカンカン」と繰り返すばかりで焼き肉については言及しなくなった。
目の前を消防車が通り過ぎる。
火というものは肉を焼くには便利だが、肉以外を焼くときは脅威だ。家財など焼いたなら俺は許さない。肉を焼けと火に説教したい。
女はどこへ。
まあいい。
もっとイイ女の声がする。
「ううううう~、まいう!」
何を食ったんだ。
俺はこの女に決める。
モテを楽しんでもつまらない。さっさと相手を決めるんだ。
ただし、女のこの「うううう~」というサイレンのような『まいう~コール』が紅茶に充てたものだった場合、俺は女を許さない。
慰謝料を請求する。
俺は、一生恋愛をしないだろう。
パトカーが俺の前を通る。
当然だ。
紅茶やケーキや、ところてんや、湯葉に「まいうー」と言う女は、逮捕せねばならない。
女だとして容赦は無用。
それでもとりあえず、
じゅて~む
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