じゅて~む エッセイ編 第28夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
俺は達太。以上。
予感がする。
女に食事に誘われる。
俺はまだ39歳にも関わらず、藤岡弘が30㎏の増量に成功したような外見だ。
女が放っておかない。
50代の金持ちのグルメな紳士に見えてしまう。
弱ったな。
俺は忙しいんだ。女に割く時間もエネルギーも無い。男として油がのりにのっている時期だ。
いやこれ冗談ではなく本当に。
油が本当に、のっかっているんだ。
だが仕方ない。
観念しよう。
女の頼みとあらば。食事にくらい一緒に行ってやってもいい。
どうせ食事は一日3~7食、とらねばならないのだから。
うち一食を女と一緒に楽しんでみようじゃないか。
だが問題がある。
相手が美女だった場合。
俺は普段は食事に専念し、思いっきり麺やコメや肉や衣を見て、素早く口元に持っていくのだが、
それが食べ物への敬意でもあるのだが、
だがしかし。
美女が向かいにいて、会話をしていた場合、俺は女の目を見る必要がある。
それが礼儀だ。
会話は、相手の目を見て。
慣れないな。
食事中に女の目を見るなんて。
しかし、近日、俺は女に食事に誘われるだろう。
食欲の秋、おそるべし。
仕方ない、練習だ。
「おい親父、ここに姿見を持ってきてくれないか。」
俺は定食屋でトンカツ定食を頂きながら、店主に頼む。
食事をしながら目を見て話す練習をするんだ。
店主はキョトン、だ。仕方あるまい。
「おい親父、姿見だ。卓上の鏡でもいいが、ともかく、鏡を頼む。それとご飯をおかわり・・・。」
ここは定食屋。姿見など置いてないとの事。
だが自宅部分の、娘さんの部屋に、ニトリで買った姿見があるとの事。
俺は店主に頼み込み、自宅部分の娘さんの部屋に、トンカツ定食をお盆ごと持ってお邪魔させてもらうことに。
普通は許されない行為だ。
「宮村さんは、うちみたいな定食屋に、いつも5000円近く落として下さるから。お酒も飲まないのに・・・。定食だけで・・・。でも、だめだよ?」
やはり許されなかった。
しかし、そこは常連。
店主が、俺のテーブルの脇に、娘さんの姿見を持ってきてくれたのだ。
なんという男気。俺は泣いて店主に、土下座して、感謝を述べた。
他の客は見て見ぬふりをしていたな。それにも感謝だ。客は全員、武士の心を持ち合わせていたんだ。
めでたく、俺は俺を見ながら食事をすることに。
俺は、鏡に映る俺の目を見ながら、トンカツを頂く。
どんよりとした目。
ぶ厚い唇。
トンカツ。
衣。
・・・しまった!
俺が、俺の目から目を離した隙に、トンカツ定食はなくなっていた・・・。
仕方ない。美女の為だ。
「麻婆麺を追加でお願いしま~す。」
再び練習をするんだ。誰かの目を見て食事をする練習を。
麻婆麺が俺の元に運ばれてくる。
俺はまた、鏡に映る俺の目を見て麻婆をすする。
我ながら迫力がある。
しかし。まただ。
俺はスープを飲み干す。
麺とスープと麻婆しか最終的に見ていなかった自分に気付く。
「カツカレーを追加でお願いしま~す。」
今度こそだ、今度こそ、俺は俺の目を見て食事をするんだ。
この後、俺は、たくさん練習をした。美女との食事に備えて。
本当にたくさん練習したんだ。
定食屋に感謝だな。
居合わせた客は、モテるのも大変だなと思ったに違いない。
恋愛に臆病にさせてしまった。申し訳ないことをした。
みんな、ちゃんと人の目を見て会話しているか?
じゅて~む
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