じゅて~む エッセイ編 第35夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
俺は達太。会社員。39歳。
独身を貫いている。
見た目は悪くない方だ。
若い頃は音楽家のバッハに似ていたし、今は高木ブーとほんじゃまかの石ちゃんのハーフだ。
それに食いっぷりもいい。
俺が独身を貫くには理由がある。
バランスの良い食事を作ってくれる妻など要らないからだ。
毎晩のように牛丼やカツ丼やカツカレーを食べたいのだ。寿司も。チャーハンも。
朝食だってそうだ。
バランスの良い、一日の活力となる朝食を作ってくれる妻なんていてみろ。
朝からカレーパン2つと焼きそばパンとおにぎりが食べたいのに。牛乳は飲んでもいい。よっぽど活力になる。
でもまあ、恋愛は楽しんでもイイとは思っている。美女とステーキハウスだ。
ところが、困ったことになった。
俺にフィアンセがいることが発覚した。
それは母からの電話。
「元気にしているのか。ちゃんと食べているのか。」
「ものすごく食べている。元気かはわからない。自分でもわからない・・・。」
とのお決まりのやり取りを終えた後、急に電話口の母の声が小さくなった。電波が悪いなど母は言う。
ほとんど聞こえないなか、俺は持ち前の分析力で聞き取ってしまった。
「達太。お前には許嫁がいるのだよ。」
は?
聞いてない。聞いてないよ、母さん。
電波の悪さが最高潮となったのか、電話は切れた。
俺にフィアンセがいたとは。
聞き間違えではない。母の声はほぼほぼ聞こえず、聞き間違えるほどのボリュームすら無かったからだ。
しかし驚いたことにロシア人。
ロシアといえば、妖精シャラポワ。
それにザギトワ。
クルニコワでも俺は有りだ。
美しすぎるスパイはごめんだ。無理無理無理無理~(ジョジョより引用)
ところで。ロシア人でも驚くことは無い。
俺の住むN県新潟市は、ロシアと友好都市のはず。確か。違ったか?調べるか、よそうか。よそう。
これはエッセイ、論文ではないのだ。間違いであっても放っておけ。フィアンセ問題に比べたら友好都市かなんて、どうでもいいことだ。
友好都市は多ければ多いほどいいのだし。世界の平和を、俺はなかなか本気で願っている。
ともかく。俺とロシア美女の婚約は、政治的に納得なのだ。
フィアンセとは、きっと幼い頃にパーティか何かで会っているのだろう。
だいたいそうだ。
ムチムチコロコロ可愛かった俺が、今ではこんなにも男らしく成長しているとは、フィアンセは想像できないだろう。
しかし。母のだらしなさには俺も怒りを覚える。
なぜ、そんな大事なことを、俺が39歳になってから告げるのだ。
ちょっと遅いだろう。
まさか、俺のフィアンセが18歳を迎えたタイミングが今なのか。
それならば納得。
ザギトワも現在18歳だ。
ザギトワ似のフィアンセを想像してみる。日本に嫁に来て、淋しくなってしまわないだろうか。心配だ。
想像しながら、フィアンセがシャラポワ似では無いことに、俺の胸はシクンとなった。
は?これは一体。
シャラポワではない、それだけでこんなにも切なくなるとは。
俺は、いつの間にかシャラポワに恋していたのか。
試合もろくに応援したことも無いくせに。俺ときたら。
俺は母に電話をかける。
頼むぜ電波の届くところにいてくれよ?
「もしもし母さん。フィアンセの方には申し訳ないけれど、婚約は解消させてくれ。理由は秘密だ。」
母に秘密と言いながら、心の中で俺は「好きな女ができたんだ・・・。」
と述べる。シャラポワの事だ。クルニコワも有りなんて述べた、3分前の自分が憎い。
もう終わってしまった事だが、過去の試合映像を片っ端から見て、応援しよう。今ならまだ間に合うかもしれない。俺の応援がシャラポワに届くかもしれない。
引退?知るか。俺の愛情の前ではそんなもの無意味だ。
母は言う。
「はい?何言ってんの?」
そりゃそうだ。
温厚な母だって怒るだろう。
こんな重大なこと。電話で急に。
しかし、母の「何言ってんの」は、怒りの言葉ではなく、字面通り「本当に何を言ってんの??」の意味であった。
フィアンセ問題は、俺の聞き間違えだったのだ。
俺は胸を撫で下ろす。
ザギトワなど存在しなかった。
これでシャラポワに足を向けて眠ることができる。
シャラポワに足を向けて、
じゅて~む
※ザギトワちゃんのファンの方、シャラポワのファンの方、すみません。
作者もザギトワちゃんとシャラポワのファンということでご勘弁を。クルニコワも好きでした。
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