じゅて~む 旅エッセイ秋田編 第40夜












【あらすじ】


N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。


タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。


----------------------------------------------




こんばんは。


まずは自己紹介から。




俺は達太。


長谷川京子似の39歳。


会社員。


もったいないことに受付嬢ではなく、総務。


そりゃそうだろう。我が社は大企業ではない。受付嬢など不要。


それに俺は長谷川京子は長谷川京子でも、大食いのロケばかり毎日こなすうちに50㎏の増量に成功し、目の輝きがなくなり二重でもなくなり、なぜか足もどんどん短くなり、お肌はプリプリのまま、福耳はそのまま、歯並びも最高のままの、長谷川京子だ。



だから、そんな俺の像が秋田にあると聞いても驚かない。


秋田は何を思ったか、俺の像を田沢湖の湖畔に建てたらしいのだ。


しかも、女の俺。俺を女にするメリットが思い浮かばない。似合う洋服が限られるはずだ。




だが、その、達子像について調べるうちに安心した。


どうやら裸婦の状態の俺との事。


洋服の心配は消えた。




しかも達子像は黄金との事。


俺は喜ぶ。


人として生まれたからには、一度は黄金になりたい。




長谷川京子の黄金の像ならば、納得だ。


今が爆発的な好景気であったなら、だいたいの企業や事務所の軒先には黄金の長谷川京子の像が建っているはずだ。




俺は達子に会いに行く決意をする。


11月、3連休の2日目。


1泊2日の秋田旅行もいいだろう。


きりたんぽ。


ハタハタ。


稲庭うどん。


いぶりがっこ。


比内地鶏。


溜息が出そうだ。




俺は思い出す。


昨日、達子に会いに秋田を目指し、国道7号を北上するも、新潟の県北と山形で目に留まる定食屋すべてに入店し、定食を食べているうちに日が暮れてきて、夕食にきりたんぽやハタハタを食べる気にはならず、たれカツ丼Wを食べるために、新潟へ引き返してきてしまった事を。


連休の初日としては最高だった。




皮肉なもんだ。


連休初日に秋田を目指し、連休2日目にも秋田を目指すことになるとは。


これがゴールデンウィークだったら?と思うと寒気がする。


毎日秋田を目指す。


国道沿いの定食屋の常連になる。山形に馴染みの定食屋を何軒も作ってしまう。地元でもないのに。


そしてゴールデンウィークが開け、定食屋は俺がぱったり来店しなくなったことに悲しむ。


豚肉をこんなにも仕入れたのに。ご飯もこんなに炊いたのに。


11月の3連休で良かった。



達子に会う以外に、俺は秋田に用が無い。


だが、そんな俺を再び秋田へ行くよう指示したのは、俺の中のロマンチストだ。



角館の桜。




俺の趣味はお花見だ。


桜をとても美しいと思う。俺の美しさなんて、桜の木の下では屁だ。




国道7号では秋田に辿り着かないと昨日わかったので、俺は駅弁6種類を買い込み「いなほ」に乗り込む。




これはあまり知られていない雑学なのだが、駅弁には大盛のサービスが無い。覚えておきたまえよ?


美味しい物をちょっとずつ、という考え方だ。


俺は6種。ちょっとずつ楽しむ。海の幸も、肉の幸も、頂くのだ。ちょっとずつ上品に。




朝8時22分新潟駅発の特急いなほに乗り込もうとし、しかし、女に会いに行くのに朝8時の汽車は品が無いと判断し、一本遅らせることに。




俺は駅をぶらぶらし、笹団子作りの実演を見たり、ラーメンを食べたり、回転ずしを食べたり、すっかり変わった駅前の景色を眺め、餃子の王将に入店したりして時間を潰す。




昼の12時。


そろそろ女に会いに行く汽車も、品を纏うだろう。


俺は12時22分発の特急いなほに乗り込む。


そして座る。


達子。大丈夫だろうか。観光客に馬鹿にされていないだろうか。


湖畔に佇む、俺そっくりの黄金の女。裸婦の俺。




俺は汽車に揺られながら、昨夜テレビで見たほんじゃまかの石塚を思う。


俺にちょっと似ている気がするのだ。


彼は秋田の横手地方でやきそばを食べていたな。


横手やきそば。


大盛の焼きそばの上に目玉焼きが乗っている。脇に唐揚げが何個か乗る。



俺も汽車の旅でなければ横手やきそばを食べていたのだろうか。


一応、オーバーオールを着てきた。俺も1着持っているのだ。腹をふわっと包みたい気分の休日のために。


店主は「あんたまた来たね」と言ってくれるだろうか。


俺は「今日は完全なるプライベートです」と答える。


店主は喜び、涙すら浮かべる。ほんじゃまかの大ファンになる。


俺は、石塚の見えないところで石塚に貢献する。




そんな妄想をしているうちに、俺は秋田に着いてしまった。


無事に着いて驚いている。昨日は着かなかったからだ。


夕方16時4分。


駅弁6種のうち、1種余ってしまった。雪だるまの可愛らしい駅弁だ。


まあいい。


角館で桜を見ながら頂こう。


なんなら道ゆく秋田犬にやってもいい。



しかし。


日が沈むのが早くなったもんだ。


それもそうか。11月だ。


目を閉じると、夕方16時でももう真っ暗だ。


しかし、目を開けると、まだ一応明るい。俺は自分の間抜けさに失笑する。目を閉じれば春でも夏でも真っ暗だ。当然だ。それは夏至にも言えること。




だが、秋田駅で本当にハタハタやしょっつるやきりたんぽしか無いのか?と調べて回るうちに、17時近くになり本当に外が暗くなる恐れはある。


いくら黄金といえど、街灯ひとつ無い田沢湖の湖畔で達子が見つかるとは思えない。




俺は諦め、若鳥半身揚げが食いたくなり、今朝新潟駅前の餃子の王将で頂いた青椒肉絲をおかわりしたくなり、再び特急いなほに乗り込むことに。


ちょうど16時35分発がある。




雪だるまの駅弁は駅前にいる秋田犬にでもあげるつもりだ。


俺は秋田の駅弁を今度は5種類、美味しい物を少しずつ、と呪文のように唱えながら買い込んだ。


俺も成長したもんだ。6種類買うと、1種類は犬のエサになってしまう。




しかし、秋田というからには秋田犬がごろごろと牧場の牛のように駅前にうろついていると想像していたのだが、なかなかいない。人ばかりだ。




いい町じゃないか。人がいる。




秋田に


じゅて~む




【予告】


いくら角館でも11月に桜は見れないと新潟に帰ってから気付いた達太。


そして田沢湖には街灯ひとつ無いとの思い込みも辞めた達太。


そして、今どきの駅弁は美味しいと気づいた達太。10種はいける・・・。









じゅて~む

【あらすじ】 N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、 架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。 そして、達太の外見は、39歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。

0コメント

  • 1000 / 1000