じゅて~む エッセイ編 第46夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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なぜ、12月の第二週ともなると町にクリスマスソングが流れているのか。
俺にはわかる。
もうすぐクリスマスがやってくるからだ。
子供たちはサンタクロースにプレゼントをお願いしただろうか。
このエッセイを毎週楽しみにしている子供たちの中に、まだサンタクロースにプレゼントをお願いしてない子供がいたら、急いだ方がいい。
エッセイストの俺からの忠告だ。
急げ。
しかし、読者の子供に急げと忠告しておきながら、俺はまだサンタクロースにプレゼントをお願いしていない。
なぜか。
それは俺がサンタクロースを信じていないからだ。
俺は39歳の立派な会社員だ。
サンタクロースは信じていない。
クールな俺は、小学2年の頃からサンタクロースを信用していなかった。
なのに大好きだった。
ちなみに、今も好きだ。
幸せな気持ちになる。
信用していないのに、何故だ。
信用できない奴は、普通嫌われるはず。
俺は音楽家のバッハや、ジャムおじさんに似ている。
サンタクロースも、もう少し背を低くして、目をどんよりさせたら、俺に似る気がする。
だから好きなのだろうか。
いや。理由はもっと別のところにある気がする。
小学校5、6年生の中にもサンタクロースを信じていない者がいるだろう。
だが、バッハ似の俺と同じく、憎んではないはず。
一体全体、これはどういうことだ。
頭の回転の速い俺は、根本から考え直す。論理的にゆこう。
まず、俺がサンタクロースを信用していないことが、そもそもの間違いと気付く。
つまり、サンタクロースはいる。
俺は小学2年のときにサンタクロースはいないとした。
だがよく考えろ。
俺が子供の頃になかったものが、今はたくさんある。
携帯電話。ルンバ。
フリクションペン。
東京スカイツリー。ドラム式洗濯機。
ユニバーサルスタジオジャパン。メガマック。
牛丼屋のうな丼。同じく牛丼屋のカツカレー大盛。
回転ずし屋の何杯でも取り放題のラーメン。
コンビニのレジ脇の、余っていると可哀そうなので全部買ってあげる唐揚げの類。
これらは昔は無かった。
だが、今はある。
同じく、サンタクロースも今はいる。
俺が知らなかっただけだ。
俺は20代~30代前半にかけて忙しくしていた。
きっとその頃に、実在するようになったのだろう。
俺は母に電話をかける。
「もしもし母さん。今電話で話しても大丈夫?」
俺はサンタクロースを信じることにしたが、大人には違いない。
家族に対しても、電話のマナーは守る。
母は自転車で移動中かもしれない。
同年代の友人と会食中かもしれない。
俺を思い出し、メンチカツ20個を揚げている最中かもしれない。
とにかく、マナーは守る。
母は、父と家でお茶を飲んでいた。
「そう。じゃあ話しても大丈夫だね。しかも、父さんも傍にいるなら話は早いよ。
まずは母さん、父さんにもこの電話の内容を聞かせたいから、スピーカー機能にして俺と会話をするんだ。わかったね?」
「スピーカーにしたかい。」
「ねえ母さん、俺、今年のクリスマスはサンタさんに車を1台、お願いしてみようと思うんだ。コペンっていうオープンカーの軽。
車はあるけれど、遊びに使う車が欲しいんだ。
オープンカーでドライブ?
気持ち良さそう?
はぁ?
母さん、何か勘違いしていない?
俺が大の揚げ物好きなのを忘れたの?
揚げ物をテイクアウトばかりしていると、車の中が、中華料理屋の裏口の匂いになってくるのさ。
女性を乗せるときに困るだろう?
だから、揚げ物の匂いを外に飛ばすような車が欲しいのさ。」
「はぁ?無理?」
「違うよ母さん、俺はサンタさんにお願いするんだ。母さんはお金を自分の趣味に使ってよね。洋裁とか。」
俺は何だか怖くなってきた。
サンタクロースにお願いするプレゼントは、両親の金銭事情も鑑みる必要がある、と俺の中のもう一人の俺が言い出したのだ。
信じているのに、何故だ。
俺は混乱する。
俺の中のもう一人の俺は、なんて疑り深い俺なんだ。
小学2年の頃の俺が、39歳の俺の中にいるというのか。
しかも、そいつの方がサンタクロースに対して冷めている。
馬鹿な。
だが、相手は子供。
昔の俺とはいえ、子供に対してムキになることほど、恰好悪いことは無い。
俺は、俺の中のもう一人の俺、小学2年の俺の声に従うことに。
プレゼントの金額をガクンと下げる。
「わかったよ。
父さん、母さん、コペンていう軽のオープンカーは諦めるよ。
サンタさんにはクリスマスオードヴルをお願いするよ。
定食屋の生姜焼きと、チェーン店の牛丼と、肉屋のメンチカツと、中華料理屋の麻婆と、給食センターにあるような炊飯器いっぱいのご飯。
これって俺でも同時に食べたことないんだ。
これにしよう。
クリスマスオードヴル。
夢みたいだな。
良い子にして過ごすとするよ。俺はいつまでも父さん母さんの可愛い息子だよ。」
「はぁ?これもダメ。
なんだって?
達太、お前死ぬぞ?」
「・・・わかった。死ぬのは嫌だ。
うん、うん、知ってるよ、生活習慣病でしょ?聞いたことだけ、あるよ。
それに、父さん母さんより先に逝くことほどの親不孝はないからね。
つまり、それは良い子ではない。
サンタさんは来ない。
それは困る。」
「では無難なところで、女性を1名、サンタさんにお願いするよ。」
俺は俺のロマンチックに惚れ惚れする。
両親も嬉しいはずだ。
結婚を面倒くさがる俺が、ついに家庭を持ってくれるか、と安心するだろう。
金もほとんどかからないプレゼントだ。親戚のおばさん連中に心当たりを聞く手間のみ。
両親の金銭事情も鑑みたうえに、クリスマスらしい、サンタクロースにお願いするに相応しい、プレゼントだ。
母も感激したのか、電話はブチン!と切れた。
泣いているのだろう。
それか父と俺について相談しているのだろう。
クリスマス後のエッセイの発表を楽しみにして欲しい。
エッセイに女性が登場する可能性がある。
だが、もし万一、サンタクロースが女性を1名プレゼントしてくれなかったなら、俺は、もっと良い子になろうと思う。
更にエッセイに力を入れ、書籍化に成功し、道徳の教科書にも載り、
エッセイストとして地元の成人式で講釈を述べ、両親の誇りとなろう。
そうすれば来年こそは、思うがままのクリスマスプレゼントが届くはず。
すべての夢見る子供に、
メリ~、じゅて~む!
メリメリ、じゅて~む!!
しまった。今日はまだ12日だ。
じゅて~む
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