じゅて~む 童話エッセイ編 第56夜 「達太、赤ずきんちゃんの兄に③」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
俺は達太、39歳。
一番好きな童話は「赤ずきんちゃん」
理由は、俺の入り込む余地があるから。
俺は赤ずきんちゃんの年の離れた兄として、おばあちゃんの見舞いに同行した。
途中、オオカミが「キレイな花畑があるぜ?寄っていくといいぜ?」と、俺の妹をそそのかしにきたが、俺は兄として論破。
そうして、5件ほどのレストランに寄り道しながらも、オオカミより先におばあちゃんの家に到着し、おばあちゃんの傍らに寝そべり、自作の赤ずきんをほっかぶり、赤ずきんちゃんのフリをし、
見事にオオカミの食欲を削いだのだ。
「こんな女、食いたくない。」
オオカミは思って、
「じゃあまた森で。」
など言いながら、去った。
色々、鮮やかだろう。
だが、妹の赤ずきんと俺はいつの間にかはぐれてしまっていた。
おそらく、いずれかのレストラン。
俺はポークソテーを2分で平らげた。ビーフシチューは熱々だったので4分。
ミートパイは1分。
ポークカツレツは2分。
ポトフは、10分。食べても食べても、満足いかなかったのでおかわりを4回したからだ。
だが、妹は。
ゆっくり食べていたように思う。
さすが俺の妹、行儀が良い。
だが。5件ほどのレストランに立ち寄ったため、どのレストランではぐれたか、わからない。
しかも俺は、俺の威厳と、俺に食われるのではないかとの畏怖を、オオカミに与え、オオカミを森に放ってしまった。
今、また、オオカミが俺の妹に近づいているかもしれない。
俺は森を駆け回る。
「赤ずきーん!赤ずきーん!」
と叫びながら。
俺まで、ニックネームで呼んでしまって、妹には申し訳ないのだが、妹の名前が、まったく思い出せない。
無事に再開できたなら、妹を今度こそ名前で呼び、抱きしめてやろう。
しかし、なかなか妹とは再開できない。
くそ。森は広い。深い。
途中、狩人にイノシシと間違われ、打たれそうになりながらも、俺はなんとか、妹に辿り着いた。
しかし。
最愛の妹の隣に、オオカミが。
俺は2人ににじり寄る。
まぁた同じ会話をしている。
「キレイな花畑があるぜ?寄っていくといいぜ?」
「まあ!」
「おばあちゃんの見舞いはもう、済んだろう?
それにおばあちゃんちにいるときの君は、とってもブサイクでブヨブヨだったぜ?」
「は?あたしが?ぶよぶよ?」
「ああ。音楽家のバッハが、目の力を失い、音楽に嫌われ、30㎏増量した状態だったぜ?」
「あたしが?」
「ああ、ひどいもんだった。食欲を削がれたよ。でも、元に戻って良かった。」
「ねえ、音楽に嫌われ、ってどういうこと?」
「いいのさ、そこは、忘れなさい。」
「わかったわ、忘れる。
でも一個だけ聞かせて?
赤い頭巾は、似合っていた?」
「うーん。」
なんという愚鈍な会話。
俺は、木陰から飛び出す。
「その赤ずきんは、こんな風じゃなかったか?!」
俺は、瞬間、オオカミの毛が逆立ったのを見逃さない。
本能的に「食われる!」と、毛を逆立てたのだろう。
「オオカミよ。
キレイな花畑、キレイな花畑、その一辺倒で俺の妹をそそのかさないでくれたまえよ?」
「第一、花畑は、だいたいキレイだろう。お前は何を言っているんだ。」
「汚い花畑を見たことが、あるか?
おい、妹よ、お前も聞くんだ。
汚い花畑なんて、無いだろう?
キレイで当然。
どうせ花畑花畑云うのなら汚い花畑があるぞと、そそのかせ。
『何それ!』だろう。
実際に目撃しないと、どう汚いか、まったく想像つかないはず。」
オオカミも妹も、ぽかんとしている。
俺は更にオオカミを追い詰める。
「さあ。俺に食われる前に去りたまえ。君は、未来では絶滅危惧種だ。俺だって絶滅危惧種を食べるなんてことはしたくない。」
オオカミはショックを受けるだろう。
「お、おま、おま、お前、なんかスゴイと思ったら、未来人なのか?」
「そうだ。」
「俺、俺、俺が、絶滅??」
「そうだ。」
「嘘だ!」
「信じたくないのであれば、結構。だが、君らはレッドデータブックに載っているぜ。」
「レッドデータ、ブック?」
「未来のデスノートみたいなもんだ。」
「いや前言撤回。デスノートは違う。デスとならないためのブックだ。」
「しっかりと書いてあるよ。ニホンオオカミ、とね。」
「二ホンオオカミ?
二ホンて何?」
しまった!
俺としたことが、ここは外国、今、ウェブ検索したところ、赤ずきんちゃんの舞台はフランスもしくはイタリア!
色んな説があるが、どっちかだ!
俺はオオカミの質問を無視。
妹と、オオカミを無視して帰宅する。
帰宅するなり、母に、俺は説教をする予定だ。
病人にぶどう酒やチーズや木いちごのパイを差し入れるのはやめろと。
甘酒にしておけと。
母は「甘酒?なにそれ?結局、甘口のワインでしょ、それも。」という表情になるだろう。
俺は、母の心中を察し、教えてやる。
「黄金の国、ジパングの滋養強壮に秀でた、腹の足しにならないノンアルコール飲料ですよ、お母様。」
おい、ちょっと待て。
オオカミにも「黄金の国ジパングだよ、以後お見知りおきを」って言えば良かったな。
日本国民の代表として、うっかりミスをしてしまったな。
日本の皆さんへ、
申し訳ありませんでした。
以後、童話に登場するときには気を付けます。
じゅて~む!
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