じゅて~む エッセイ編 第58夜「達太、白雪姫の世界へ」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太。
39歳、好きな童話は赤ずきんちゃん。
一方、嫌いな童話は白雪姫。
何故嫌いか。
俺の入り込む余地が無いからだ。
俺は、赤ずきんちゃんの世界には馴染んだ。
しかもオオカミを論破したり、地元のレストランでポークソテーを食べたりした。
しかし。
白雪姫には俺の出番が全く無い。
俺は善意で、若い娘が辛い想いをするのは宜しくないと考え、赤ずきんちゃんよろしく、白雪姫を助けてあげようとしたのだが、大失敗に終わった。
さあ、俺の苦労と不満の物語を、召し上がれ。
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「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは、だあれ?」
「それは達太にございます。」
「嘘を仰い。」
俺は焦る。
白雪姫の天敵、お妃様のジェラシーの矛先を俺に向けようとするが、
お妃様はちっとも俺の方を向いてはくれない。
この世で一番美しいのは俺ではないと見抜かれてしまった。確かに俺は音楽家のバッハを醜くしたような外見だ。仕方あるまい。
俺は、お妃様に進言する。
もちろん投書だ。
俺は小市民。お妃様はお城に居る、おそらくこの国の重要人物。
「お妃様へ。この世で一番美しいのを鏡に聞くのは今宵でお辞めを。
明日からはこの世で一番醜いものを鏡に尋ねて下さい。達太39歳。黄金の国ジパング出身。」
しかし、お妃様の刺客はいつまで経っても俺を狙ってこない。
毒リンゴ、腹の足しにもならないが買ってやろうと思っているのに。
「鏡よ鏡、この世で一番醜いのは、だあれ?」
「それは、達太にございます。
ポトフを受け付けず、
パンすら受け付けず、
オムライスハンバーグ添えを訴えてくる達太にございます。」
「おのれ、達太、この私を差し置いて、最も醜いとは・・・(怒)」
そして俺は狙われる。
だが。未だお妃様からはご無沙汰だ。
つまりは。矛先は俺に向いていない。
俺は白雪姫が心配になる。
森へ行くか・・・。
森では、時すでに遅し。
白雪姫が昏睡している。
毒リンゴを食ったのか。哀れな。
リンゴが美味しそうなど、あり得ないというのに!
白雪姫。その傍らには7人の小人が泣いている。
俺も小人に混じって悲しもうと、8人目として白雪姫の元へ。
「うわーん、うわーん!
白雪姫ぇー。なんでリンゴなんか食ったんだ~、揚げ物なら毒なんて100度の熱でやっつけたのに~、揚げ物、揚げ物~。」
小人たちは、泣くのを辞め、俺をじっと見る。
「こんばんは。俺は達太。俺を小人の8人目として、物語に参加させてくれないか。」
「お、お、大きいですね。」
「人間だから仕方ない。だが大きい小人が一人くらいいても良いだろう。」
「横にも、大きいですね。」
「ああ。横にも大きい。だが、よく見てくれ。縦というか、前後ろにも大きい。腹が、出ているんだ。」
そこへ王子様が通りかかった。
俺は思わず叫ぶ。
「王子様!」
しかし王子様は、軽く会釈をし、過ぎ去る。
なんと、俺が大きいせいで、昏睡する白雪姫に気付かなかったようだ。
小人7人は、王子様を追いかける。
俺も、もちろん、8人目として。
しかし、王子様は、7人の小人と俺が自分を追いかけてくることを怖く思ったようだ。
馬でダッシュで「ごきげんよう!」など言いながら去ってしまった。
俺は深く反省する。
小人たちは再び激しく泣き始めた。
納得だ。
白雪姫が助からない。
俺のせいで。
俺は小人を励ます。
「なあ。俺は確かに大きい。
そして王子を逃がした。
だが、こう見えて俺は39歳なんだぜ?
俺が小人に加入すれば、平均年齢はぐっと若くなると思う。
よく見ると、あなた方はとても小さいが、老けている。」
小人たちは泣き止まない。
俺はこの童話に珍入したことを後悔する。
俺のせいで、皆が悲しい想いをしている。
こうなったら、俺が、なんとしてでも白雪姫を復活させてみせる。
キスだ。
キスしかない。
キスに頼る他無い。
姫にキスするんだ。
じゅて~むだ。
白雪姫にキスをするのだ。
目覚めさせるのだ。
ところが!
小人7人はそれを必死で止めてきた。
「やめてください!やめてください!」
なぜ?
なぜ止める?
俺は混乱する。
混乱したので、俺は白雪姫の脇からいったん去り、森の中のレストランに入店。
ポークソテーを2人前、食べる。
白雪姫の分だ。理屈は自分でもわからないが、白雪姫の分と称して2人前食べる。
混乱したのでレストレランに入店するあたりから、既に理屈の外。だから二人前食べる理屈など、屁。
会計時、俺はシェフに尋ねる。
「麻婆的なものは作れますか。」
俺のキスが許されないならば、麻婆を白雪姫の口の中へ流し込んであげよう。
そうすれば、挽肉の旨味と、花椒のスパイシーな匂いと、あんかけの温もりと、油の香りで、白雪姫は目覚めるだろう。
普通、俺が白雪姫なら、目覚める。
「ごっくん。
これは、麻婆!
昏睡していてはダメだわ!
いけないわ!
すするのが精一杯よ、昏睡だから!
麻婆の部分しか頂けないわ!
麻婆なのに、ご飯も、麺も、
頂けないなんて、
人生、損してるわ!
達太姫、もう起きます!」
しかし。
シェフは中華を心得てなかった。
「は? マー、ボウ?」
おしまいだ。
麻婆が手に入らない今、白雪姫を目覚めさせることは不可能。
白雪姫、救ってやれなくって悪かった。
俺は赤ずきんちゃんの年の離れた兄として、赤ずきんちゃんの世界に戻るとしよう。(第53夜、54夜、55夜参照)
じゅて~む、
スノーホワイト
ビーフシチューを思いつかなかった俺を許してくれ
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