じゅてむりん④ 第66夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太、39歳、高木ブウ似の会社員。
今、映画グレムリンにならい、『じゅてむりん』として、姿かたちはそのままに、アメリカの家庭にクリスマスプレゼントとして贈り込まれている。
だが、縛りが多い。
人間には守ること不可能である約束事があるのだ。
①太陽を浴びない。浴びたら死ぬ。
②水も浴びない。浴びたら5体に増殖する。
③深夜0時以降に食べない。食べると緑色になり凶暴化する。
だが俺は、この3つの約束が、3つと見せかけて実は2つと見抜いた。
②は気にしなくていいのだ。
俺が5体に増殖。
何か問題があるか。無い。
むしろ魅惑的だ。
しかも少しずつ、本体の俺とは異なる俺が生まれるようだ。
会いたいではないか。
キラキラ二重の俺や、ハゲの俺、
そして、女性の俺。おそらくモテる。
早速、俺は②の約束を破るためにバスルームへ向かう。
大丈夫、バスタオルは5枚、用意した。
バスルームで俺たちは出会う。
ハッピーエンドが待っている。
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
「おめでとう。」
「生まれてくれてありがとう。」
「お、お、俺が5人?」
「初めまして慌てないで。」
「まずは自己紹介から。俺は達太、39歳、会社員。座右の銘は大盛無料。好きな花は薔薇。」
「俺もそうだ。好きな花は薔薇。」
「まいったな、モロ被りじゃないか。」
「バスタオルが足りないかもしれない。」
「大丈夫だ、あらかじめ、5人分用意した。」
「バスタオル5枚??」
「よくバスタオルを5枚も用意できたな。すごいぞ。」
「静粛に。会いたかったよ、みんな。
でも一旦目を瞑るんだ。
女性のジュテムリンが、いるはずだ。いくら同一人物とはいえ、女性の裸の前では目を瞑るのがジェントルな振る舞いだ。」
「一理ある。いくら湯気の中とはいえ、女性が入浴中は目を瞑るのがジェントルだ。」
「俺と瓜二つでも女性には違いない。目を瞑ろう!」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「女性のジュテムリンは、洗髪を終えて脱衣所へ行ったか?」
「返事が無いな。」
「よし、目を開けよう。」
「なんだ、おい、全員男性じゃないか!」
「目を瞑る必要なんて無かったわけだ。」
俺は安心した半面、少し寂しくなる。
女性のジュテムリンに会いたかったのだ。
俺にそっくりの女性。可哀そうに。
だがモテる。①の約束にのっとり、太陽で死なないために日傘を差しており、モテる。
俺たち5人は、シャワーを浴びて小ざっぱりした。
そしてもちろん、台所へ向かう。
小ざっぱりしたら、ビールを飲んで、揚げ物を食べる。
それが俺たちの約束だ。
3つの約束よりも強い、遺伝子に組み込まれた約束だ。
とにかく食べる、そういう約束だ。
増殖した俺のうち3人は、卓上にあるピザ、フライドチキン、ソーセージを食べた。
③の約束をあっけなく破ったのだ。
仕方あるまい。映画的にもそれが正解だ。増えて生まれたばかりの俺たちは、つい本能で動いてしまうのだ。
そして俺のうち3人は、緑色になった。
耳は尖り、だが、顔がブヨブヨなのであまり目立たない。
牙も生えた。
だが、紫色のブヨブヨの唇で隠れてしまい、牙もやはり目立たない。
肌は緑色で、堅くなった。
だが所詮はぜい肉。表面が固くなっても、本質は柔らかいままだった。
どうやら凶暴化しているようだが、食べる速度が元々早いせいで、
食い散らかしてはいるが、凶暴と判別するのは難しい。
緑色だがとにかく良く食べる、そういう印象だ。
俺は、それを眺める。
約束の③を、一応、俺だけでも守らなければ映画として成り立たない気がするからだ。
ところが、隣にも俺と同じスタンスの俺がいた。
目が二重でキラキラしている。
俺は、彼を頼もしく思う。バディに最適だ。この町の平和を守ろう。
だが、なぜ、隣の俺は、クリスマスオードブゥルを食べない?
彼は言った。
「俺はヴェジタリアンのじゅてむりん達太。よろしく。」
俺は驚いた。
増えた俺の中に、まさかヴェジタリアンの俺がいるとは。
やはり頼もしい。
俺のその心を見破ってか、ヴェジタリアンの俺は
「おや。信じてくれないかい。
では証明してみせよう。
クリスマスオードブゥルの脇にあるサラダのレタスを、食べてみせるよ。」
レ、レタス!?
そんなもの食べて、楽しいのか??
俺は困惑する。
だがそんな俺に一向構わず、ヴェジタリアンの俺はレタスを口元へ運ぶ。
俺に見せつけるはずだったのに、俺に一向構わず、レタスを、だ。
根っからのヴェジタリアン、というわけか。
頼もしい。肌色の俺が、もう一名残る。
だが、ちょっと待て。
レタスでも、深夜0時以降はアウトな気がする。
「おい、やめろ、レタスでも、」
遅かった。
ヴェジタリアンの俺も緑色に。
俺はレタスって美味しいのか?と彼に想いを馳せ、ソーセージにレタスを添え、ドッグパンに挟む。
ホットドッグの出来上がりだ。
いただきます。
アーメン。
ご馳走様でした。
俺も緑色に。
③の約束も、これでクリアーだ。
5名の緑色のジュテムリン達太。
次回はクリスマスの街へ繰り出す予定だ。
楽しみだ。
ハッピーエンドが待っている。
じゅてむりん。
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