じゅてむりん⑤ 第67夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
-----------------------------------------------
俺は達太、39歳、高木ブウ似の会社員。
土日はエッセイスト。
エッセイを発表している。
だが、ひょんなことから、映画グレムリンにならい、『じゅてむりん』として、姿かたちはそのままに、アメリカの家庭にクリスマスプレゼントとして贈り込まれた。
最近はその状態でエッセイを発表している。
少年ビリーは俺をギズモと呼びたがるし、3つの約束事がある。
①達太は太陽を浴びると死ぬ。
②達太は水を浴びると5体に増える。
③達太は深夜0時以降に食事をすると、緑色になり、凶暴化する。
俺は、贈り込まれたその夜遅くに、早くもこの約束の②と③をクリアー。
バスルームでシャワーを浴び、5体に増えた。
中にはヴェジタリアンの俺もいて、驚いた。しかもヴェジ達太は、キラキラの二重だ。
女性のジュテムリンも誕生するかと内心ときめいていたが、居なかった。
バスタオルは予め、5枚用意しておいたので、喧嘩にはならなかった。
俺たちは仲良く、クリスマスオードブゥルの残りを食べるため、キッチンへ向かい、そして頂いた。
深夜一時だったか。
セーフだ。
明朝頂くと、フライの軽快さと重厚さが薄れる品もあったはずだ。
美味しいうちに5体の達太が頂いた。
これで③もクリアー。
俺たちは緑色となった。
残すは、①
太陽を浴びて死ぬ。
それは避けたい。
太陽を浴びて日本に帰る。
それなら我慢できる。
何故ならビリーとは文通をすれば良いからだ。
しかし。
死ぬ?
それは困る。
俺はビリーへのクリスマスプレゼント。そんな俺が明朝、太陽を浴び、死ぬ。
一夜にして消えるプレゼントなんて、あるか?
あるな。
誕生日にご馳走を食べ、
「美味しかったかい?
贅沢な献立だったね。」
「サプライズプレゼントは大成功かな?」
「せーの、サプラ~イズ!!」
そうか。
プレゼントが残るものではない場合、つまりそれはご馳走だ。
俺は、ビリーのご馳走になれば①の約束を破って消えても、ビリーの心に残るだろう。
クリスマスプレゼントのご馳走ジュテムリンとして。
サプライズだ。
日傘を差して延命?
それはビリーに恥をかかせる。
心無いアメリカ子供は、よってたかって言うだろう。
「おい、ビリーのチビが、緑色の太っちょ短足のおじさんを連れて歩いてるぞ。」
「しかも、おじさんのくせにビーチパラソルを差してないか?」
「おい、それより、5人もいる。」
「おい、しかも5人ともなんか似てるぞ。」
「それは東洋人が皆同じに見えてしまう、俺たちに非があるかもな。」
「そうかな~。俺は錦織と松岡とマイケルチャンの区別はつくぜ?」
「俺も。錦織と八村塁の区別はつくぜ?」
「じゃ、やっぱビリーの隣のおじさん達は同じ人物ってこと?
でも、緑色なのはどう説明する?」
「それは、その。あのおじさん達がイエローモンキーだからさ。」
「え?緑色って、英語でイエローだっけ?あれ、あれ?グリーンが、黄色だっけ?」
「もうよくわかんねー。」
「にしても日傘は無いよな。
緑色の高木ブウ似のおじさんが、なんで日焼けを怖がるんだ。」
想像するだけで胸が痛む。
俺のせいでビリーが。
俺は、他4体のジュテムリンと、ビリーの寝室へ向かう。
ビリーのほっぺにキスをするのだ。
解決策が思いつかない今、ビリーにキスをしてあげる事が、愛だ。
俺たちは寝室へすべり込む。
アメリカとはいえ、子供部屋は狭い。
とても窮屈だ。
だが、俺はこれしきのことでめげない。
ビリーのほっぺに、5人で順番に、キスだ。
3人めの俺あたりで、ビリーは目を覚ますかもしれない。
メリークリスマス。
ところが、
俺は急に閃いてしまった。
せっかく緑色の、凶暴化した俺たちジュテムリンだ。
5体のうち、2体が、赤かったら?
クリスマスカラーが完成だ。
しまった!
俺としたことが、緑色の凶暴化したジュテムリンばっかり5人で、ビリーの部屋に来てしまった!
これから急いで2体を赤くするんだ!
ビリーが目覚める前に!
塗料か何かで、体を赤くする!
緑、赤、緑、の順番でビリーにキスをするんだ!
ところが、俺達は凶暴な状態だ。
本体の俺が、2体のジュテムリンに赤い塗料を塗っている間に、
その他の1体がビリーに、キスをしてしまったら、どうする!
急げ、本体のジュテムリンのエッセイストの俺!
しかし。
いくらアメリカの家庭とはいえ、すぐに赤い塗料が手元にある訳ではなく・・・。
ハッピーエンドが待っている。
とても楽しみだ。
じゅてむりん。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
この時間に、しかもクリスマスの夜に、お客人?
アスクルで赤い塗料を手配した覚えもないし。
誰だ。まさか、泥棒?
ホームアローンに物語がシフトするか。それは困る。俺はあくまでもジュテムリン。
「俺の、フィッシュ&チップスだ・・・。」
ヴェジタリアンのジュテムリンが目を輝かせた。
「皆ばかり美味しそうだったから、
俺もヴェジタリアンとはいえ、達太には違い無いのだし、もっと野菜を食べたいなと思って・・・さ!」
何か引っかかるものがある。
ヴェジタリアンのジュテムリンは俺達に逆に質問をよこす。
「ヴェジタリアンじゃないジュテムリンの君たちは、白身魚のフライになんて興味ないだろう?
俺ひとりで頂くね。」
確かに。白身のフライなど、のり弁にでものっけておけ。
のり弁と同額なら、迷わず唐揚げか生姜焼きだ。
「それにシーフードピザも、もうすぐ届く。」
「クラブハウスサンドも。一番安値のシンプルなハンバーガーも。」
なるほど。
やはりジュテムリンはジュテムリン。
そのとき、ビリーが
「むにゃむにゃ、ギズ、いや達太?」
キスする前に目を覚ましてしまいそうだ。
どうするジュテムリン達!
じゅて~む
0コメント