じゅて~む エッセイ編 第72夜 「達太こぶとりじいさんと寝食を共に③」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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「まてまて~、まてまて~」
今の俺の気持ちだ。
俺は達太、39歳の会社員だが、大変ご馳走に興味があるため、貧乏くさい匂いのする日本昔話の時代を生き抜いたにも関わらず、小太りである老人がいると思い出し、「こぶとりじいさん」の世界へ訪れたのだが。
実際にはじいさんは小太りではなく。
じいさんと寝食を共にすれば、見たこともないご馳走にあやかれると思っていたのに。
俺は、もはや魅力のなくなってしまったじいさんを、まじまじと眺める。
じいさんは、自分の顔に何かついているのか?など言っている。
それに対し、鬼(今、俺達は鬼に絡まれている・・・)は、「こぶが付いている」など答えている。
そこで俺は「まてまて~」となっているのだ。
だが俺も立派な大人。
しかもこの時代からすれば部外者。
つまり、お客様だ。
鬼が催してくれるという宴会を、待つしかない。
「さあ。重箱を。」
だが鬼も、じいさんも、こぶや舞いの話を進めている。
どうやら、じいさんが上手に踊って宴会を盛り上げたら、じいさんのこぶを取ってやろうという話らしい。
馬鹿馬鹿しい。
宴会など、ご馳走がメイン。
踊りなどご馳走が旨ければ必要が無い。
鬼は、それをわかっていない。
つまり。
「鬼。
まさか、重箱の中の宴会用のご馳走は、美味しくない。もしくは、さっぱりしたご馳走なんじゃないか?」
「怒ったりはしない。
正直に答えて欲しい。
腹に、グッと来ないご馳走。
違うか?
だから、翁の舞いを楽しんで、笑って、腹をゆすって、物足りなさを埋めようと、してないか?」
「もしそうならば。
俺はもう退席したいと思う・・・。」
じいさんが舞い始めた。
俺は、もはや魅力の無くなってしまったじいさんの舞いには興味が無い。
背を向け、2021年へ。
牛丼チェーン店へ直行か。
と、そのとき、
俺の背後から「ムシャリ」という大きな音が!
肉を噛み千切る音だ!
ご馳走は、ご馳走だったか!
俺は咄嗟に判断し、音の方向へ腹を突き出した。
・・・・本来なら、肉料理の方向へ、唇を、歯を、持っていくべきだった。
だが俺は、腹が切なすぎて、腹を突き出した。良い判断だったと思う。
だがそれが間違いだった。
ムシャリという音は、鬼が、じいさんの踊りに感激し、じいさんの頬にあったコブを取った音だった。
結果、そのコブは俺の腹に。
俺が腹を突き出したからだ。
しかも俺は、何故だかTシャツをめくりながら腹を突き出してしまったようだ。
「ぎゃああああ!」
鬼は驚き叫ぶ。
「お前、何してんだ!
なんで、コブに腹を寄せてきたんだ!」
「鬼。静かに。
宴会の席だぞ。」
宴会の席で「静かに」とは何とも皮肉。
俺の腹に、魅力に欠けるじいさんのコブが、くっついた。
そんな宴会だった。
盛り上がった。
めでたし、だ。
さすが昔話。
だが俺の腹の虫はそれではおさまらない。
だってそうだろう?
俺の立派な腹にコブがくっついた。
魅力に欠けるじいさんのコブが。
次回、コブを覆い隠すため、エプロンを買いに繰り出すことに・・・。
こぶとりじいさんの世界でエプロンを探すか、2021年でエプロンを探すか、それはまだ秘密。
お楽しみに。
じゅて~む
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