じゅて~む エッセイ編 第73夜 「達太こぶとりじいさんと寝食と共に④」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
-----------------------------------------------
俺は今、日本昔話「こぶとりじいさん」の世界を訪れている。
いたって普通の会社員、2021年現在39歳、ジャムおじさん似の好青年だ。
もちろん、腹は出ている。
たくさん食べて、一歩も動かず、毎日を謳歌しているからだ。
そんな俺の大切な腹に、じいさんの頬にあったコブが、くっついてしまった。
※じゅて~む 第72夜参照
俺はコブを覆う必要がある。
エプロンを急いで買おう。
だが。
初めてのエプロン。
一体、俺にはどんなエプロンが似合うのだろう。
「翁と鬼に相談があります。
俺はエプロンが欲しくなりました。」
「達太とやら。
そのコブ、とってやろうか?
一応、ルールにのっとって、お前が舞いを踊って、俺達が満足したらという条件付きだけど。」
「そうですか。
つまり、明日も宴会があると考えていいのですか。
では。こちらからもお願いがあります。重箱の数を増やすか、そちらの人数を減らしてもらいたい。
宴会にしてはご馳走が物足らないというか、なんというか、腹がまだまだ雄叫びをあげているんです。」
「腹が、雄叫び?」
「はい雄叫び。」
「それは、ご馳走が足りないという意味合いか?
それとも、美味しくて満腹という意味合いか?」
「両方です。」
「は。両方?」
「はい。」
しまった。
両方のわけがない。
矛盾している。
雄叫びをあげる腹は、空腹であり満腹であるという事になる。
普通。腹が悲鳴をあげる、と表現する。
だが、俺は、俺の腹に悲鳴なんかあげて欲しくないんだ。
俺の腹はいつも男らしく紳士で立派でなければならない。
だから雄叫びと言ったまで。
なのに。こんな事態に発展するとは。
俺だって39歳の一般人、ノリで答えてしまうことだって、ある。
今回が良い例だ。
だが思考を停止してはならない。
話を進めるんだ。
「では、明日は13時にまたここで。
重箱を増やすか、人数を減らしてお越し下さい。」
なぜ13時か。
午前中はエプロンを探して歩くからだ。その足で茶屋で天丼を食べてから宴会に参加したいからだ。天丼は自ずと11時か。
「ところで鬼。
この近辺に素敵なエプロンを置いている店はありますか。」
! ! ! !?
俺は鬼を見て、唖然とした。
鬼は、トランクスしか履いていなかった・・・。
俺は思いつく。
明日、自分のエプロンだけではなく、鬼のエプロンも買ってきてやろうと。
鬼も腹を覆う必要がある。俺は自分の腹ばかりを想って、なんて心の狭い人間なんだ、恥ずかしい。
俺は鬼の人数を改めて数える。
6人か。
エプロンは俺1枚、鬼6枚、計7枚必要とわかる。
「鬼、前言撤回だ。
明日は重箱の数を増やすんだ。
人数は減らさなくてよくなったんだ。明日は俺から素敵なサプライズプレゼントがある。だから6人揃って驚きにいらっしゃい。重箱の数は増やすように。いいね。」
完璧な明日の予定ができた。
さて。
エプロンを2021年で探すのも面倒くさい。
こちらで探すか。
だが。こちらの貨幣事情がわからない。
「翁。
俺にお金を下さい。
俺と鬼のエプロンを買うに十分な金をお願いします。」
翁はひどく驚いている様子。
サプライズプレゼントを翁にした覚えは全くないが?なんだこの驚きようは。
はてさて!
翁は俺に金をくれるか、
嫌がるか。
あげたいけど貧しくて難しいか・・・。
お楽しみに!
じゅて~む
0コメント