じゅて~む エッセイ編 第75夜 「達太こぶとりじいさんと寝食を共に⑥」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太、会社員。
日曜日にはエッセイストだがね。
しかし最近、エッセイの何たるかが、よくわからなくなってきた。
随筆。そうだ、俺は随筆している。
なのに何故だ。
しょっちゅう、童話や日本昔話にお邪魔してしまう。
俺のスター性がそうさせてしまうのかもしれない。
俺の行くところに事件がある。
「相棒」の「杉下右京」も、そういう男だ。
彼の気持ちがわかる。
彼も、随筆したいだけだろう、おそらく。
だが俺は彼と違い、音楽家のバッハを劣化させたような外見だ。
だが髪型はバッハよりずっといい。
39歳だというのに、オールバックでポマードで固めてみている。
そんなことは今どうでもいい。
俺は今、こぶとりじいさんと寝食を共にしている。
しかも俺の腹に、じいさんのコブがくっついている。
だから俺は、コブ付きの腹をエプロンで覆いたい。
そしてじいさんに小遣いをねだった。
だが。
じいさんは俺に小遣いをくれなかった。
仕方あるまい。
俺は居候らしく、じいさんと一緒に家に帰る。
「なあ、翁。
考えたのだが。
エプロンのための小遣いを工面するのが難しいんだろう?
ならば俺に、ばあさんの着物をリメイクするゴーサインをくれないか?
さあ、翁。
ばあさんの着物を、特に美しいと思う着物を、下さい。
俺の腹は立派なので、この腹に相応しい柄の着物を頼みます。
つまり。『腹負け』しない着物を。
! ! !
ところで翁!
今日は何月何日ですか!
! ! !
しまった!
俺としたことが!
今日は5月9日、母の日。
ばあさんにとって、俺は、未来からやってきた可愛い居候。
それはつまり息子のような存在。
ところが、その俺に、カーネーションの準備がない・・・!
絶対絶命だ。
ばあさんは、期待しているはずだ。
俺からのカーネーションを。
翁、俺は一体どうしたら・・・。
いいや。翁、落ち着いて。
俺に名案がある。
ばあさんが嫁入りのときに着てきた着物があるだろう?
それをエプロンにリメイクする。
しかも、2着。
俺と、ばあさんでお揃いにするんだ。ばあさん、喜ぶぞ。下手なカーネーションより、ずっと喜ぶはずだ。
なんせ、俺と揃いのエプロンだ。これ以上の母の日の贈り物は無いだろう。
大丈夫だ心配いらない。着物というのは布部分がとても多い。一人の人間を包むのに、俺みたいな幅のある人間を包むほどの布面積だ。
いける。
エプロン2着、いける。
これをもってして、母の日の贈り物とする、最高だ!」
俺は、淀んだ瞳とブヨブヨした唇で、翁に、利発に提案する。
これで母の日は誰も傷つくことなく、乗り切れるだろう。
「達太さん。あの。
カーネーションとは何ですか。
エプロンとは何ですか。
母の日とは何ですか。祭りをやりますか。
それと、なんだか気持ち悪かった『じゅて~む』とは何ですか。」
俺は驚く。
じいさんに何度も小遣いをくれと「じゅて~む」と懇願したのに、じいさんにはその意味が通じていなかったようだ。
だが。
しっかりと気味悪がってはいる。
俺からの愛を。
まったく物語が進まない。
俺も驚いている。
だが仕方ない、エッセイだ。
じっくり行こうじゃないか、こぶとりじいさんの世界を。
特に今日なんかは母の日で、番外編のごとき匂いを纏っていたな。
すべての、お母さんに感謝を示すような、むず痒いエッセイだったんじゃないか?
たまにはいいだろう。脱線も。
じゅて~む
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