じゅて~む エッセイ編 第77夜「シンデレラボーイ①」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太。39歳の会社員。
だが。日曜はエッセイストと成る。
スーツを脱ぎ捨て、腹いっぱい食べても良いようにワンサイズ上のチノパンを履き、立派な腹を出し惜しむかのようにワンサイズ上のTシャツないしはポロシャツを着こむ。
だが。今、俺の腹には1か月ちょっと前から、こぶし大のコブがくっ付いている。
SFではない。
エッセイだ。現実だ。
だから困っている。
こぶとりじいさんを小太りじいさんと勘違いし、一緒に鬼の催す宴会に出席したツケが、コレだ。現実だ。
エプロンで隠したい。
やれやれ。
せっかくの日曜。家でゴロゴロ、出前をとって、早めに眠りたいところだが。エプロンを工面しなければ。エッセイも書かねばだし。
どうせならエッセイのネタになるようなエプロン探しをしよう。
俺は、シンデレラを思い出す。
シンデレラが、魔法を頂きドレッシーになる瞬間、それまで着用していたエプロンは不要となるはず。
俺の腹を覆うエプロン。
俺の腹はとにかく立派。
それに見合うエプロン。迫力のあるエプロン。
「シンデレラが貧乏時代に召していたエプロン」
展示されていそうだ。
歴史がある。趣がある。悲哀もある。
俺の腹にふさわしい。
俺は、シンデレラが魔法を頂く瞬間へ。
さて。上手に立ち会えるか。
魔「いいかいシンデレラ、これからお前にかける魔法は、0時には解けるからね。覚えておくのよ。」
シ「あたしも舞踏会に参加できるのね!ありがとう魔法使いのおばあさん!」
達「・・・・・。」
10秒後。
そこには、美しいドレスに身を包まれたシンデレラと、
美しいドレスに身を包まれた俺が居た。
もちろん、カボチャの馬車も。
達「ねえ、魔女。エプロンはどこ行った?」
魔「あなた、誰。」
達「俺は達太。エプロンが欲しい。見て、このコブ。魔女、エプロンはどこだ。」
魔「達太、あたしは魔法使い。魔女と呼ばないで。達太はエプロンが欲しいの?」
シ「舞踏会が始まってしまうわ。」
しまった!
俺は魔法使いが女性と気付き、年老いてはいるが女性として扱いたいと「魔女」と呼びかけたが、どうやらソレは間違いだったらしい。
結果、彼女を傷つけてしまったようだ。女性はデリケートだ。
俺は彼女を食事に誘う。そうすることで、「魔法使い」そう呼びかけながらも、彼女を女性をして扱い、先刻の失礼を帳消しにするんだ。
達「マダム。夕飯はまだですか。もしそうならばディナーをご馳走させて下さい。」
魔「ドレス姿のあなたと?私が?」
俺はハッとする。
ドレスを着こみ、ドレッシーになった自分を顧みる。
俺は、魔法使いを見捨て、シンデレラと共にカボチャの馬車に乗り込むしかないようだ。
馬車の後部座席は、すこぶる狭かった。さすがカボチャ。
質量に対し、食せる部分が少ない。気になってはいた。
シンデレラが隣でグッタリしている。
俺が大きくて狭いせいか。
いや。昼間の労働のためだろう。
シンデレラ。
昼間は姉たちから労働を押し付けられていると聞く。
では、その労働に費やしたエネルギーを補完する食欲たるや、それは立派であろう。
楽しみだ。
シンデレラに負けんと舞踏会の食事を堪能してみせよう。
このドレスはハンデか。腰の部分が窮屈だ。だが負ける気がしない。
シンデレラより、食べてみせる。
美しい俺のライバル、シンデレラ。
戦いは始まったばかりだ。
じゅて~む
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