じゅて~む エッセイ編 第78夜「シンデレラボーイ②」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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俺は達太。会社員、39歳。
だが、週末をどう過ごそうと俺の勝手。
俺は日曜はエッセイストとして過ごす。
エッセイを書く。
先週末のエッセイでは、シンデレラと共に、魔法使いのばあさんからドレッシーになる魔法を頂いた。
流れで俺もカボチャの馬車に乗り込み、舞踏会へ参加することにした。
カボチャの馬車は俺が乗り込んだことで狭かった。
馬がすぐにサボろうとするのか、乗り手が常に「ハイヤ!ハイヤ!」と言っていて、俺は笑いそうになった。
だが。
おそらく俺の重みで馬はサボりたくなっているのだろう。
では、俺を笑わすのも俺、というわけか。
そんなことをエッセイ脳で考えているうちにお城に着いた。
いよいよ舞踏会だ。
美しいシンデレラ。
しかし。その正体は召使いさながらに労働する若い女性。
男も驚くほど豪快な食いっぷりに違いない。
さあ!
何から食べる、シンデレラ!
サラダとは言わせない・・・!
ところが。
シンデレラは貴族や伯爵などに誘われ、踊り始めた。
俺は舞踏会に踊りに来たのではない。
オードヴルの並ぶ、丸テーブルへ。
細々とした料理が並んでいる。
「塵も積もれば山と成る」
日本のことわざだが、おそらくシンデレラの時代の貴族は、本能的にこの真実に辿り着いていたのであろう。
小ぶりなこの料理の数々を、食べ重ねることで満足せよと、いう事だ。
シンデレラは、向こうで王子と踊っている。
可哀そうに。
昼間あんなに労働して、舞踏会でもダンスして。
俺はシンデレラの分まで、食おうと決心する。
それがシンデレラへの最も正しい礼儀だ。
深夜0時。
食い続けた俺は、さすがに満腹だ。
今、王子にダンスを申し込まれても「腹がいっぱいでダルくて動けません、すみません。」と色気のない返事をするしかない、そんな状態だ。
お城の鐘が鳴る。
ボーン、ボーン、ボーン。
と、そのとき!!
シンデレラが、急に駆け出した!
舞踏会を後に、お城を後に、
もちろん俺を置いて!
なるほど、2軒めか!
シンデレラは舞踏会でダンスしてばかりで、ほとんど食べていない、2軒めに向かったんだ。
だが、何故だ、何故俺を連れて行かない。一緒に来たのに!
俺は猛ダッシュでシンデレラを追う。
ドレス姿だが構わない。
しかしガラスの靴が邪魔だ、走りにくい。
この腹も邪魔だ、走りにくい。
俺はガラスの靴を脱ぎ、森に向かって投げ捨てる。
「待ってくれシンデレラ!」
俺は繰り返し叫ぶ。2軒めに一緒に行きたいと、深夜0時だ〆に相応しい、腹に溜まるメニュを出す2軒めに、俺も是非。
ところが・・・。
そんな俺の背中からも同じ叫び声が。
「待ってくれシンデレラ!」
若い男の声だな。
「誰だ?!
俺の心の声を代行するのは。」
俺は走るのをやめ、ピタと止まり、ぐるんと振り返り、相手を威嚇すべく、麻婆麺を注文するときのような低い声で、尋ねる。
そこに居たのは。
王子。
「どいてくれ、シンデレラを追っているんだ。」
「王子も2軒めですか。」
「は?」
「王子、本日の舞踏会の料理について、反省点をいくつか申し上げても宜しいでしょうか。ムッシュ。」
「どの立場からの意見だい。
君はドレスを着ているようだけれども、女性かい?男性かい?
女性なら多めに見てあげるけれど、男性なら、税金を余計に払ってもらうも、やむを得ないよ?
それに、そのムッシュってのは間違いだ。」
よく喋る男だ。王子。
「はあ。君のせいで彼女を見失ったよ。おや。でも君の足元に彼女の靴があるね。」
本当によく喋る。
はて。靴?
俺は先ほどガラスの靴を脱ぎ捨て、森に放り投げたはずだが?
放り投げそびれていたか。
いかんせん、俺には野球の経験が無いからな。
俺は、足元にあるガラスの靴を手に取り、思い切り、森へ向かって投げた。
先ほどの教訓を生かし、肩を使って、腰からの力も連動させ、つまり腹をゆすり。
「なにするんだ!」
王子が泣き叫んでいる。本当によく喋る王子だ。これは確かにエネルギーを使う。確かに王子にも2軒めは必要。
2軒めに行ったであろうシンデレラを追う、俺と王子。
次回、待望のシンデレラお勧めの深夜の洋食に、ありつけるか。
じゅて~む
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