じゅて~む エッセイ編 第81夜 「シンデレラボーイ⑤」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
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「・・・レラ。
・・・デレラ。
・・・デレラ。」
は?
なんだ?
誰かが俺に呼びかけているな。
俺は達太。39歳の会社員。
日曜はエッセイスト。
似ている偉人はバッハ。車種はアンパンマン号。
そう、達太だ俺は。
だが。枕元で俺に呼びかける声は、
「デレラ」
と繰り返す。
ははん、シンデレラの事だな。俺は閃くが、しかし焦る。
眠っている俺は「シンデレラ」と呼びかけられている。
つまり。
俺はひょんなことからシンデレラと入れ替わってしまったようだ。
どのきっかけだ?
思い当たるのは、ただ一つ。
シンデレラを見失った俺と王子は、大人しくお城に帰り、シャワを浴び、眠りについた。
そして俺は夢の中で、豚の丸焼きを食べた。
そのタイミングだ。
俺は旨さと喜びで、我を忘れ、豚の丸焼きを頂いた。
普段は行儀よくガツガツ定食を食べる俺だが、豚の丸焼きの前ではマナーなどわからないし、思いっきり楽しんで食べようと思って、手を汚したり脂を舐めたり、食いちぎったり、「アーメン」「ご馳走様」と交互に感謝を述べたり、パンに挟んだり、ベーコンも食べたり、生姜焼きも出てきたり、
とにかく我を、夢の中で見失ったのだ。
きっかけとしては十分だ。
そのため、達太はどこかへ行ってしまい、シンデレラになってしまった。
王子が美しく眠る俺に囁く。
「シンデレラ・・・」
俺はどうしたらいいんだ。
これからは大食漢の美女として生きるしかないのか。
まったく、エッセイは小説より奇なり。
金髪は普通のシャンプーで洗って大丈夫なのか。
俺は長い睫毛を振り払うように目覚める。
「おはようダーリン。
じゅてーむ。」
「貴様!
ダーリンとは何事だ、達太!
早く支度するんだ、シンデレラを探すぞ!」
「は?
お言葉ですが王子、シンデレラはここに、横たわっておりますぞ。」
どうやら、王子は「シンデレラを探しに行こうよ達太」のようなことを、俺の枕元で連呼してしまったようだ。
そのため。俺は我を失いシンデレラになってしまったと錯覚したようだ。
とんちは全て解けた。
「お前がシンデレラのわけがないだろう!シンデレラは美しいんだ!」
「んま!」
「腹の上で手をお姫様みたく組むのはやめろ!起きろ!」
「いくら王子に心奪われようとも、あたしの腹はあたしのもの。腹の上で何をしようとあたしの自由ですわ。」
昨夜に引き続きよく喋る王子だ。
だが。シンデレラとして恋仲になった今、痴話げんかの対手としては、よい働きを成す。
「起きろ達太!」
はいはい、と起きようとした瞬間、俺は閃く。
このまま、俺がシンデレラとして王子の側に居た方が、王子は幸せなんじゃないか?
理由は無い。
俺は、既に自我を取り戻しているが、王子のためにシンデレラのフリを続けようと誓う。
メルヘンとはそういうことだろう。
「いいえ。王子。わたしは、あなたの、シンデレラです。
さあ、朝食の会場へ向かいましょう。」
朝食ビュッフェか。
久しぶりだ。
新潟の月岡温泉の摩周に泊まって、朝からたらふく食べて以来だ・・・。
王子がよく喋っているが、俺はシンデレラとしてはにかみながら適当に「ええ」「まあ」と相槌を打つ。
「達太!」
「ええ。」
「お前、ガラスの靴を森に投げた罰としてシンデレラを探せ!」
「まあ。」
じゅて~む、と言うも俺なら、言われるも俺・・・
たまには愛されてみるか・・・
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