じゅて~む エッセイ編 第82夜「シンデレラボーイ⑥」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
そして、達太の外見は、39歳にして高木ブー氏と、ほんじゃまか石塚氏を足して2で割ったようであった・・・。
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まずは自己紹介から。
俺は達太、39歳。会社員。
だが。今はシンデレラとして生きている。先週からだ。
王子にとってそれがベストかと思ったからだ。理由は無い。直感ですら無い。
自己分析すると、お城の朝食ブッフェならびに、お城の日常的なご馳走に興味があったからだ。
今俺は、王子と共に朝食会場へ向かっている。
「んま」やら「まあ!」やら「うふふ」などの女言葉を使いこなしながら。
「達太!ちゃんと聞いているのか!
朝食を共にすることは許す!
食べたらすぐにシンデレラを探すんだ、わかったな!」
「まあ!」
「まあじゃないよ!
昨夜から何度も言っている、驚くのは間違いだ!」
本当によく喋る王子だが、言っていることは正しい。
だが。俺にはどうでもいい。
俺はお城の食事を楽しみたいだけだ。
カツ丼が恋しいのは確か。
生姜焼き定食と味噌ラーメンも、恋しい。愛しい。
麻婆麺も愛しい。
今となってはアジフライすら愛しい。
懐かしい。
俺は朝食の席に着座する。
スカートに皺が付かないように。
1泊2日の女装生活だが、もう心得てきている。
俺は自分の順応力にハッとする。
そんな俺に、いや、俺を?見て声を発する人物が、そこには居た。
「王子。
その女装をした男は誰だ。」
俺は驚く。
王子ですら「お前は女か?女装をした男か?」と初対面では俺に質問した。
ところがどうだ、この男は、俺を達太と見破り、女装していることも見破った。
「はい、父上。
達太にございます。」
「達太?」
「はい、おはようございます。」
「あ、おはよう。
すまんが達太、君ではなく王子に聞いたんだ。達太とはなんだ?」
俺に「達太?」と話しかけてくれたわけではなかったようだ。
俺の脇で、王子が昨夜のシンデレラとのダンスから、今朝に至るまでを順を追って説明している。
俺は気付く。
この、俺の女装を瞬時に見破るこの男は、おそらく王様。
俺の女装を見破る聡明さ。
そして王子が「父上」と呼ぶ、格上の様子!!
俺は、そろそろシンデレラのフリも、シンデレラの世界とも別れなければならないな。
このまま俺がお城にいては、王様に気に入られ政治に介入させられる恐れがある。
「うむ。
王子、説明はもういい。
どれだけ聞いても理解不能だ。
達太なしでシンデレラを探すでいいと思うがね。」
さすが王様。
聡明だ。
そうだぜ王子、俺に頼るな。
俺は朝から牛丼を食べたり、おやつにカレーうどんとメンチカツを食べたいんだ。
「じゅて~む、王子。
楽しかったわ。」
俺は王子の頬にキスをする自分を想像し、王子の頬を凝視し、朝食会場を後にした。
そして2021年の、牛丼チェーン店の朝食へ向かう。
シンデレラと王子と俺の三角関係を、広げっぱなしだが、仕方ない。
じゅて~む
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