じゅて~む エッセイ編 第88夜
現在、8月29日である。
夏が終わるではないか。
かわいそうに。
だが、俺は40歳の会社員なので夏休みなど関係ない。
しかも日曜はエッセイストと化すため、実際は夏休みどころか一切休んでいない。ブラックだ。勝手にブラックな働き方をしている。誰も責めることはできない。
これでうっかり社長を責めたらおそらく怒られる。エッセイやめろと怒られ、傷つくのが目に見えている。
俺は頭がいいので、そこまで予測し、会社を訴えていないのだ。
それで、だ。
夏が終わるのを良く思っていない少年少女の為に、今日はエッセイはお休みして、怖い話なんて書いてあげよう。
エッセイ書かない=エッセイストとして日曜に働かない。俺の働き方改革にもなる。情けは人のためならず。
だが、その前に。
まずは自己紹介から。
俺は達太。
40歳にして徳川家康公にそっくりである。
ありがたいことだ。
だが。天下を取りたいとは思わない。
自由が利かなくなるからだ。
「殿、そんなに召し上がっては御身体に差し支えます。」
「何を申すか。ラーメンとチャーハンのセットくらい許せ。普通だ。普通。よくある。よく見る。」
「殿、私も最初はそう思ったのですが、いざ運ばれてきたものと言ったら・・・。」
「全チャーハンの事か。」
「はい。そのチャーハン、大きくないですか。」
「これは半チャーハンではないからね。」
「全チャーハンとは何ですか。」
「何だっていい。現に、全チャーハンというメニュなど無いからね。
先程ラーメンとチャーハンのセットを注文した後、再びボウイを呼んでラーメンとチャーハンのセットを頼んだんだ。注文したことを忘れている男のフリをしつつも、チャーハンは一つの皿にまとめてもらって構わないと添えてね。」
「はあ。じゃ、なんでラーメンはひとつなんですか。」
するどい。
さすが姫だ。
※家来と店に来ているのではない。
姫と来ている。
「君、このラーメンは実は2杯目だ。
1杯目のラーメンは、先ほどビッグコミックスピリッツを取りに行ったときに、カウンターで頂いてきた。
カウンターで待ち構えたんだ。
ボウイは驚いていたがね。
サービスエリアのレストラン形式で取りに来ましたってな顔を貫いたよ。
呼ばれてもないのに、さ。
でも俺は普段からサービスエリアのレストランでも、呼ばれてなくても俺のメニュだと思ったら、進んで厨房前に取りに行くんだ。」
俺は薄情する。
「さあさあ、2杯目だからと言って遠慮していたら麺がのびてしまう!
食べよう食べよう!」
と、なってしまい、天下を取る弊害はデカい。
ついてこい。
俺が天下を取りたくない、自由が利かず面倒だという、自己紹介の一貫だ。
「殿、ラーメンが2杯目なのはよくわかりましたが、このラーメン、何ラーメンですか。」
「パーコー麺。」
「パーコー、麺?」
排骨と書いてパーコーと読ます。
トンカツサイズの肉を、唐揚げとトンカツの中間みたいな揚げ方をして、ラーメンの上に乗せた麺ものだ。
中国発祥、使用する肉はもちろん豚。
だが俺は姫にこのことは伏せておく。
結果、姫の質問を無視することになっても構わない。
意地悪な気持ちは微塵もない。
食べている最中だから、無視させてもらうんだ。
「ですから殿。せめて普通のラーメンチャーハンのセットになさって下さい。
トンカツサイズの豚肉揚げが乗っているラーメンはお辞めください。
まして2セットは御身体に触ります。」
さすが姫。
パーコー麺の正体を見破ったか。
まさか。くノ一なのか?
だとしたら、敵?
面倒だ。ただでさえ恋愛は面倒なのに、姫が敵でパーコー麺を見破るなどうんざりだ。
だから俺は徳川家康公そっくりだが、お殿様にはもちろんなりたくないし、お殿様の替え玉に抜擢されても、そんな危険な役は辞退する。命を狙われたくない。
どうしても江戸時代に来てくださいと頼まれたら?
難しい質問だが答えは用意してある。
くノ一として生きる覚悟だ。
前にも述べたが、くノ一達太は蝶のように舞い、蜂のように刺す。
そして忍びとは名ばかり。どんどん目立って活躍する覚悟だ。
敵を倒した後にウインクなどもしてみたい。
自己紹介が長引いている。終わらせよう、駆け足で。
好きな映画は「たんぽぽ」。洗顔フォームはダヴ。生まれ変わるなら朱鷺。
いよいよ怖い話だ。少年少女お待ちかねだ。
とある夜。
俺はタクシーを拾い、
あれは確か午前様。
午前2時様。
俺はぞわっとして後部座席を振り返る、しかしそこには誰もいない。
この世の者とは思えない美しさの女でも乗って居てくれてもイイもんなんだが。
運転手も同じ気持ちだったようで、
「お客さん、何だか気味が悪いです。お一人なんですから助手席に乗らないで下さい。」
「俺もだ。気味が悪いと思ったら、タクシーなのに助手席に乗ってしまっている。」
「はい、直感的に、気持ち悪い客だなと思いました。」
「そんな、怪談噺の出だしみたく言わないでくれ。助手席に乗り込んだくらいで。俺だって落ち着かない。停めてくれ。」
「え。こんな雑木林しかないようなところで。お客さん、まさか。
生き急いではなりませんよ。」
「そのまさかだ。後部座席に、移る。」
「ほっ。良かった、なら喜んで停めます。いやあ、お客さんは見たところ60代後半ですが、まだ40歳くらいでしょう。死ぬには早い。」
誰が死ぬと言った?
なんて縁起の悪い夜なんだ。
しかもこの運転手、俺の年を当てた。
だいたい、タクシーの運転手とはバックミラー越しに喋るもんじゃないのか?怪談なら特に。
助手席で顔と顔を合わせ、怪談噺のトーン。居心地が悪い。
やはり後部座席へ移ろう。
その俺の気持ちを察してか、雑木林の中だったが運転手は車を停めてくれた。
俺は、暗闇の中、助手席から降り、後部座席へと。
一瞬だが、真夜中の、雑木林に囲まれた道に降りた俺。
あれは本当に怖かった。
少年少女の皆さん、怖かったかな?
子供にはわからない怖さだったかな。
暗い道はとにかく怖いという、ビビりがちな大人向けの怖い話だ。
そういう大人になれば、この話の怖さも、いつかわかるかもしれないね。
夏に、じゅて~む
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