じゅて~む エッセイ編 第87夜












【あらすじ】


N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。


そして、達太の外見は、40歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。


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夢を見た。


夢の中で俺は、転んだ。


顔面からだ。



夢のことなので、あまり覚えていないが、両手にテイクアウトした牛丼を持っていたんじゃないかな。


あるいはテイクアウトしたカツ丼。


またあるいは生姜焼き弁当。


ないしはゴミ袋。




起床し、俺は歯を磨く。


歯を磨きながら、鏡の中の自分を見てホッとする。


ああ、相変わらず不細工ではあるが、顔に傷ひとつない・・・。


夢で良かった・・・。


40歳を迎え、俺はますます徳川家康公に似てきた。


早くも背も縮み始めた。短足に磨きがかかる。


しかし。ところで。


寝ぼけていないのに、俺の目が死んでいる。なぜだ。どよんとしている。


不思議だ。


自分でも、わからない。


それに。


昨夜、酒も飲んでいないのに、ぶくぶくっと、むくんでいる。


わからないことだらけだ。




やはり、夢の中で転んだせいだろうか。




続いて俺は顔を洗う。


自分の顔が気になって仕方のない今朝だ。


俺は顔を1回ゆすぐごとに、バッと顔を上げ、鏡で自分の顔を確認する。


当たり前だが、顔面が水びたしで、ウケる。


顔をバッとあげるせいで、頬はぶるぶると揺れ、目の焦点も合っておらず、鼻の穴は膨らんでおり、ウケる。


かと思えば、鼻の穴が「すんっ」と閉じていることもあり、驚く。




俺は繰り返し、顔をゆすぐごとに鏡を見る。


やばい。ハマりそうだ。


今日は日曜だから、こんなのんびりと洗顔しながら自分の顔で遊んでいられるが、これが月曜になってみろ?


遅刻だ。


いや、正確には遅刻はしない。


俺は自宅での朝食に加えて、通勤中の牛丼チェーン店でも朝食セットをいただくのでね・・・。


洗顔にハマってしまっては、この朝セットが省略となる。


節約?


は?


だからして、洗顔にハマるのは困るのだ。朝っぱらから自分の顔に大ウケするのは、土日だけに留めておこう。




楽しかった洗顔も終わり、俺は出掛ける準備にとりかかる。


日曜はエッセイストをして活躍する俺。


だが机に向かいっぱなしというわけにもいかない。


出掛けるのだ。


どうやら外は雨。




俺はどきんとする。


雨。


俺は傘をさすだろう。




傘をささないという選択肢はない。


なぜ?


それを聞くか・・・。


誰だってそうだろう・・・。


雨なら傘さすだろう。


なぜ?と聞くか。(正気か?)


では答えよう。


ずぶぬれの俺は絶対に面白い様になる。


だが、そうまでして笑いを取りたいか?


コント集団の一員ではあるまいし。


そうやって体を張ったコントは俺向きかもしれないが、そういったコントは


飽きられる気がする。


それに、ネタ書きがつまらない想いをするだろう。


あれ?私、達太に面白いセリフ書いたのに、みんな、ずぶぬれの達太で爆笑してセリフ聞いてない・・・。


女を泣かすのは趣味じゃない。


言い忘れたが、俺のネタを書いているのは女だ。


俺はコント集団の一員ではないが、一員になるとしたら、女のネタ書きがいる集団を選ぶという設定だ。


悪いね、全部、あっタラなレバ話だ。




そうそう。


だから俺は傘をさす。


雨なんだ、傘ぐらいささせてくれ。




だが、俺はどきんとする。


昨夜の夢。


転ぶ夢。


あの夢が、洗顔を楽しむための夢であったとは思えない。



俺はぴんとくる。


雨合羽だ。


あの夢は雨合羽を着ろという、夢の俺からの命令だったのだ。


雨合羽なら転んだときに両手をついて、大切な顔を守ることができる。


洗顔も引き続き楽しめる。




それに雨合羽なら両手にテイクアウトした牛丼を持てる。


傘だと片手にしか牛丼を持てず、それでは物足りないため、二往復するはめになる。


雨合羽なら両手に牛丼で、時短かつ運動不足、一石二鳥だ。


(おや。両手がまたふさがっているね、せっかく雨合羽を着たのに。)




俺はいそいそと雨合羽を引っ張り出す。


中学時代に自転車通学だった頃、両親に買ってもらったものだ。


誕生日プレゼントに何が欲しいと聞かれ、雨合羽と答え、もらい、両親も俺も虚しい気持ちになった雨合羽だ。


当時はなぜ虚しい気持ちになったのか、わからなかった。


今はわかる。




それを今着よう。


40歳の今も愛用。


両親は喜ぶかもしれないね。


あの時の虚しさが、消えるね。


過去の失敗は取り戻せる。




はっ!!


夢の俺、やるな!




よし、雨合羽を着た俺を両親に見せびらかせに行くんだ!


しかも。


両手にカツ丼をテイクアウトして行ってやろう。


「老いに勝つ」


最高の親孝行だ。




(牛丼だと「老いにギュウ?」「は?」「バカ息子め」となってしまう。)




ビリ!


バリ!!


ビリーン・・・!!




俺は驚き悲しむ。


まさか、中学生の頃の自分より、今の自分がデカいとは、想像もしなかった。


雨合羽が完全に引き裂けたのだ。




悲しいエッセイとなった。


だが、国語の教科書で扱われるにふさわしいエッセイとなったんじゃないか?


エッセイにも悲劇は宿る。


俺は学んだ。


白雪姫が俺のせいで眠りっぱとなったときも悲劇的だったが。




前半の洗顔のくだりで俺は個人的にはいっぱい楽しくなったから、エッセイとしてはウィンウィンとも思うがね。




しかし。


今回すごくエッセイらしかったな。


「夢の俺」なんていう、素晴らしい言葉も飛び出たし。


一冊の本になるような内容だ。


文字数的に、どうだろう。


イケるんじゃないか。


まず内容がいい。


薄い本になる?


は?


んじゃ安くていいじゃん。


薄い本ってぶ厚い本より安いじゃん。




じゅて~む




追伸


夏ももうすぐ終わるね。


かわいそうに。


かわいそうな少年少女のため、来週は夏休み映画のような内容にしてあげよう。


オオカミに育てられた少女の話だ。


オオカミが育て始めて2週間ばかし経った頃、俺がそれを発見し、少女を育て始めるという・・・。


オオカミと達太に育てられた少女。


おそらく映画になります。


高木ブーと橋本愛のダブル主演。














じゅて~む

【あらすじ】 N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、 架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。 そして、達太の外見は、39歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。

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