じゅて~む エッセイ編 第91夜「北風と達太と太陽」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
そして、達太の外見は、40歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。
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以前、俺が洗顔にハマった話はしたと思う。
そのブウム、今も続いていると思いますか。
ひと洗いする度に、鏡をバッと見て、水にまみれた必死の俺自身の顔にウケるという娯楽、洗顔。
結論から言うと、ブウムは去った。
だがそんな俺も顔は毎朝洗っている。たしなみとして。
さて、寒くなってきた。
朝の洗顔が大変に辛い。
水を手ですくい、顔に冷水をぶっかける瞬間、
「マズい、冷たい目に遭っちまう!」と気付き、持ち前の頭の回転の速さで、「飲むしかない!」と手の中の水をがぶ飲み、見事に冷水をやっつけ、自身のファインプレーを称える朝も、ある。楽しそう?バカ言えよ。
これでは洗顔が進まない。
俺に水なんて飲ませるなよ?
飲んでカレー、もしくは麻婆だ。
まっとうなところだと、牛丼にくっ付いてくる豚汁。
だから俺は、再びブウムを再燃させたい、洗顔にハマりたい。
自己紹介が遅れた。
「俺」とは誰?となっている。
オレオレ詐欺だと通報されても文句は言えない。
「おさむかい?おさむなんだろう?
顔を洗うのが辛いのかい?」
「ああ俺、俺、おさむだよ。だから30万円工面して欲しい。」
「給湯器を38度設定にして顔を洗うと、気持ちがいいんじゃないのかい?」
「・・・・・うん。」
「食べながら話しているような声だけれど、本当におさむかい?
ところでおさむ、洗顔の他にブームは無いのかい?」
勘の良い今時の老人は、話を長引かせながら、固定電話で俺と話しつつ、空いている方の手で、らくらくスマホを操作、110番する。
俺はお縄というわけだ。
自己紹介をしなかった代償だ、デカい。
じゃあ自己紹介をしようじゃないか。
俺は達太、40歳の会社員。
似ている有名人は七福神の布袋尊。
それがスーツを着こなしていると思ってもらって結構。
好きな花は薔薇。
趣味は『旅』だ。
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俺は達太、旅人だ。
トレンチコートを着て旅をしている。
もちろん、トレンチは俺に似合っていない。
本来トレンチは腹部分をいったんベルトで締めると思うが、俺はそうはしない。
せっかくの旅だ、腹を解放してゆきたい。旅とは3食の他にご当地メンチやフランクを楽しむもの。
女性はソフトクリームも楽しむといい。俺はその横顔を楽しもう。
だから俺は、みぞおち部分にベルトを持ってきている。
するとトレンチはたちまちワンピースのようになり、しかもトレンチはベージュだ、ベージュのワンピースと言えば、イイ女でなければ着こなせない代物であり、
遠目、俺は旅するイイ女なんだろう。
そんな俺の頭上から声がする。
『勝負だ』との声がする。
早食いか?
はたまた大食いか?
いや、違う。
空高くから声は聞こえる。
つまり遠目。俺はベージュのワンピースを着こなすほどの、イイ女。
早食いや大食いを申込むわけがない。
「結婚の申込みか。」
俺はうんざりする。旅の途中で結婚を申込まれても困る。イイ女の宿命。
北風「勝負だ、太陽さんよう、あの旅人のコートを脱がせた方が勝ちだ。」
太陽「いいわよ。」
北風「まずは俺からだ、冷たい北風を、思いっきり吹きかける!」
何てことだ。
空高くで会話を楽しんでいたのは北風と太陽だった。
しかも、俺をイイ女と勘違いし、俺のコートを脱がそうとしている。
なんという遊びを!
俺の中の旅人根性に火が点く。
「絶対にコートは脱がないわよ!」
俺は上空に向かって叫ぶ。
嘘だ、コートは脱ぐつもりだ。
「結婚の申込みなら、なおさらよ!
ジェントルじゃない男は嫌いよ!」
進んでコートを脱ぎ、小脇に抱えるつもりだ。
なぜって?
もうすぐ牛丼屋が、ある。
入店するためだ。
たいていの牛丼は特盛であってもすぐに提供される。
だから、コートは入店前に脱いでおく。
これが俺の旅の流儀。
北風「いくぞ、ビュウウうううう!」
さて脱ぐか。いざ入店。
そのとき、恐ろしいことが起こった。
俺の4メートル先を歩く、ベージュのコートを着た、いかにも旅人らしい男が、北風をもろに喰らっているではないか。
俺は、物語の蚊帳の外だったというわけか。
だが、そうもいくまい。「じゅて~む」ファンの為にも、物語に食い込んでいく必要がある。違うか?
次回、俺は、旅人の立場を捨て、
北風と太陽の新たなライバルとして勝負に参戦しようと思う。
俺なんかより、もっともっと旅人らしい出で立ちの彼のコートを、俺は脱がす。
待ってろ旅人。
じゅて~む。
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