じゅて~む エッセイ編 第98夜「風呂場まで持っていく秘密」
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
そして、達太の外見は、39歳にして徳川家康公にそっくりであった・・・。
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まずは自己紹介から。
俺は達太。39歳の会社員。
日曜はエッセイスト。
似て非なる有名人は、七福神の布袋尊。
似ているが、俺ではない、俺は神様ではない、人に福はもたらすがね。
だが。風向きが怪しい。
劇の王様になってみないか、との誘いがある。神様に似ていると言っているのに何故、王様。
しかも劇の、王?
「なれるんですか」
俺は問う。
「頑張り次第」
と返される。
「何を頑張るんですか」
俺は問う。
「大食いですか。早食いですか。エッセイですか。掃除ですか。」
俺は問い続ける。考え続けるのが人間ならば、俺は考えることを放棄し、問い続けることで答えを得たい。
楽をしたい。
だが人間は放棄しない、これからも食事を楽しみたいから。
一挙両得。
違うかもしれない今、一挙両得、だが言わせろ頼む。
そして答えに驚愕する。
「脚本と演出を頑張ってもらう。」
ほう。
やってみようじゃないか。初挑戦だが、初挑戦の気がしない。
20分のお芝居やコントなど、初だが、そんな気は全くしないが、全うしようじゃないか。
タイトルは「風呂場まで持っていく秘密」とのこと。
墓場ではなく、風呂場。
じゃ秘密じゃないのか、いや違う、秘密は秘密だ。
風呂場で薄情すべき秘密・・・。
家庭内か、ガチの温泉ではない限り、風呂場では異性に遭遇しない。
赤ちゃんでなければ。
ではつまり。異性には知られてはならないが、同性と赤ちゃんには知られてもいい事実、ということか。
同性に知られたくない俺の秘密。
俺はキュウリが実は好きだ。
俺のイメージにそぐわないだろう。
それゆえ秘密。
赤ちゃんに知られたくない秘密。
俺はテニスを嗜んでいた、とても昔に。スコートを履いて北信越大会でベスト8になったりした。
こんなこと、赤ちゃん連中には知られたくないな。
なぜならこの違和感に赤ちゃんは気付かず、せっかくの意外なエピソードなのにツッコミをくれないから。赤ちゃんは。徳川家康のスコート姿は大人が楽しむものだ。
演出を考えようじゃないか。
「風呂場まで持っていく秘密」の。
風呂場なんだろ、まずは舞台に湯気を立ち込めさす。
湯気の中、俺は歌いながら登場。
♪パラララ、パラララ、パーララ、
ラーラ、パーララーーラララ
「本日はご来場頂き、誠にありがとうございます。音の鳴る機器をお持ちの方は、音の鳴らないようご配慮願います。
写真撮影はお控え下さい。
そして。大変、本当に、恐縮で、気が進まないのですが、劇場内での飲食は、お控え下さい。飲食できないなんて、俺なら我慢できませんが、お願い致します。」
俺は前説をやりながら泣いてしまう。
写真撮影ができないのなんて、どうでもいい。電源オフもどうでもいい。
だが飲食を控える。そんなこと、人が人に、強いていいのか。
ああ、カツ丼が食いたい。カツカレーもついでに食いたい。
牛丼も食える。ささっと、客入れ中に食べてしまえる。豚汁を付けなければ。豚汁は熱い。
なのに、飲食禁止。涙が止まらない。卍、卍、卍。
だが俺は続ける、前説を。
「本日、舞台を20分間動き回るのは、中央ヤマモダンの山本さんです。
俺の会社の同期です。彼には何としても幸せになって欲しいものです。」
前説のはずが、結婚式の乾杯の前説のようになってしまう。前説には変わりないが、どうする、劇の王を目指す俺は。
では全うすることで正当化しよう。
「人生には三つの大切な袋があります。胃袋、胃袋、胃袋。胃袋。」
全うすることで正当化、そのための結婚式のスピーチのお決まり、
しかしそれすら全うできなかった。
胃袋を、ワン、ツー、スリはーい!!
四回も言ってしまった。
三つの袋だというのに。四つの胃袋。
仕方ないだろ、俺の人生、胃袋は多い方がいい。
そして、演出家として前説に登場した俺は、山本に、舞台袖に引き戻される。
「単独ライブじゃないんだから、前説は要らないんだよ!
ただでさえ、20分超えそうなのに、前説たっぷりやったら、絶対に20分に収まらないだろ!
3分損した!どうすんだ!」
なるほど。
ごもっともだ。
こうして。風呂場でキュウリが実は好きですと告白する芝居が始まる。
山本はガリガリだが、俺の脚本に寄り添い、まるで胴長短足のメタボリックシンドロームのような動きをやってみせる。
さすが、ピン芝居に取り憑かれて、全て持ってかれた男。
そして山本は湯舟に浸かる。
もちろん風呂場だ。
「俺、実は、きゅ、きゅ、好き、きゅ、きゅう。」
山本がキュウリが好きでも当然だ。
ゴボウなんてとても似合う、
だが山本はアマでありプロ、脚本に寄り添い舞台上ではメタボ。キュウリ好きを薄情する、その決意、美しい。
だが。秘密を告白する相手が風呂場にいない、ではないか。
俺が、達太39歳エッセイストが行くしかない風呂場に。舞台上に。
一人芝居とか言っているが仕方ない。
俺は鼻歌を歌いながら湯けむりの中を行く。
♪ふん、ふんふ、ふふふんー、ふんふん。 ふん、ふふふん、ふふふん?
もうよくわからなくなってきたな。
風呂場で、俺も山本も、キュウリ美味しいという、たったそれだけの芝居の完成だ。劇の王に相応しい。
しかし。劇王、全裸はありなのか。
先週の見学時に確認し忘れたな。
まあ大丈夫だろう。俺の場合は、腹が全部、オブラートに包む。
山本は逮捕されるかもしれない。
それはそれとて。風呂場の再現どうすんだ。
実行委員会が、「風呂場まで持ってく秘密」のタイトルでピンときて用意してくれているかもしれない。
大変にありがたい。ありがとうございます。
劇王が終わったら、第100夜だな。
カツ丼をしょっちゅう食べている俺。
縁起の塊のはず。勝つはず。
ここで。エッセイであってラジオじゃないのに、葉書。
「じゅて~むを言葉にできないです。どうしたらいいですか。」
言葉にできない?
言葉にするなよ。
部屋で踊るんだ。
今日はお前に免じて、じゅて~む言わないことにするか。
踊りについて。俺は薔薇を咥えたいからフラメンコを踊る。フランス語圏の俺だが、スペイン語圏のフラメンコを、薔薇を咥えたいから踊る。
じゅて~む
あ、愛してるって言っちゃった。
中央ヤマモダンを好いて下さる方々に、つい。
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