じゅて~む エッセイ編 第48夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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まずは自己紹介から。
俺の名は達太。会社員。39歳。
似ている有名人は徳川家康。
徳川幕府の初代将軍だ。
昔の日本で、十分に肉を体に蓄えた、とても偉大な人物だ。
カツカレーも無い。
麻婆麺も無い。
焼き肉パーティーも無い。
回鍋肉の読み方すらわからない。
だいたい文字の読める人間の少なかったこと!
そんな時代に俺に似ているなんて偉業だ。
白飯とたくあんとメザシしか食べられない時代に、よくもまあ、上手に俺に似たものだ。
まあ、秋には脂ののった秋刀魚くらいは食べたのかもしれないが、フライではなかったはずだ。
アジの干物くらい、小田原あたりから年貢として届いたかもしれないが、それにしたってアジフライではなかったはず。
俺は、彼に感謝したい。
ありがとう。俺に似てくれてありがとうと。
だが決して将軍様ありがとうとは言わない。
何故なら現代でそんな事を言って万歳をすると、あらぬ誤解を受けるからだ。
前述の何行かは、書籍化の際にはカットされるだろうから、読者の皆様には、今のうちに3回ほど読み返してもらいたい。
だが、3回読み返しても、そんなに面白い冗談ではないことは、断っておく。
俺はあくまでエッセイスト。
ところで、最近気づいたことがある。
俺は人よりも食べることが好きかもしれない。
そんなことより、朝目覚めると、家の前に雪が積もっていた。
俺は焼き肉の気持ちから、すき焼きの気持ちに少し傾く。
そして俺は、せっかくの4頭身、曜日によっては3頭身の事もある。
だから俺は、俺を模した雪だるまを作って、家の前を彩ろうと思いついた。
タイヤ交換もまだしていないが、優先順位としては俺の雪だるまが先だろう。
タイヤ交換は気の向いたときにすれば良いだけのこと。
何のための出前システムだ。
早速、俺は雪だるま作りに取り掛かる。
寒いが、カレーうどんを食べながら行えば大丈夫だ。
そして、カレーうどんの汁は跳ね、雪だるまにカレーが付着してしまった。
あるあるだ。
俺は慌てず、その部分の雪を食べた。
俺のダルマは無事にまた純白に戻った。
胴体の部分は15分でできた。
なかなか手際よくできたものだ。
腹の部分に雪を付け足す。
天を拝んでいるような腹にしてやるのだ。
サービスだ。
本当の俺の腹は、天を拝みながらも、重力で鍾乳洞のように垂れている。
しかし、似顔絵だって「盛る」だろう?
少し男前を足させてくれ。
ばんと張った腹にさせてもらおうじゃないか。
いくらでも食べられるような立派な腹。
さて、次は顔の部分だ。
幸い、俺には首が無い。
頭を作れば完成だ。
しかし、俺は急に気持ちが覚めてきた。
俺の顔が大きく、腹および胴の部分に乗せることに、技術を要するからでは無い。
俺はその苦労さえも、カレーうどんをおかわりして、乗り越え、楽しむつもりだったのだ。
その証拠に、カレーうどんでは足りなかったときの為に、24時間営業のファミレスから、五目麺の出前が10分後に届くよう手配してある。
俺が嫌になったのは、明日の天気のせいだ。
晴れたらどうしよう。
溶けてしまう。
雪ダルマ達太が消えるのだ。
あんなに食べていたのに、あんなに立派な腹にしてやったのに、牛丼とカツカレーだってお供えをしたのに。
それに、もし万一にも明日がまた雪であったとしよう。
その場合、雪ダルマ達太は、その立派なフォルムを失う。
今にも増してだらしない体となってしまう。
お供えした牛丼とカツカレーの上にも雪が積もる。俺は昼飯に焼き肉丼を食べたというのに、お供えに雪が積もる前に室内へ避難させ、変な時間にそれを食べることになる。
地蔵のように傘でも被せてやるか・・・。
しかし、それでもまだ問題がある。
雪ダルマ達太は、近所のクスリのアオキの駐車場の入り口に、作り始めてしまったのだ。
間もなく午前9時。
店舗スタッフが開店の為、雪ダルマ達太にお湯をかけにやってくるだろう。
俺はとても悲しい気持ちになる。
本当は俺だって、自分の家の前に、達太を作りたかったのだ。
しかし、思いのほか俺の腹と胴部分は立派な大きさの為、近所のクスリのアオキまで、雪を転がすはめになったのだ。
お湯をくだすスタッフが、女性であったなら達太も報われるだろうが、男性スタッフであった場合は?
俺は自宅に戻り、お湯を沸かし始める。
特盛ペヤングを食べるためではない。
自ら、達太にお湯をかけるためだ。
しかし、特盛ペヤングを食べたくもなってきた。
皮肉なもんだ。
俺は、お湯を持ってクスリのアオキへ。
ところが、小学4年くらいの女の子らが、達太の腹と胴に、まん丸の可愛らしい頭を乗っけているではないか。
俺は泣き崩れる。
俺の顔は四角いので、雪ダルマ達太には似ておらず、可愛い雪だるまが完成した。
それでも俺は嬉しい気持ちになる。
このお湯は、彼女らにかけてあげようか。
手がしもやけにならないように。
俺はやかんを手に、もじもじと彼女らに近づく。
「おはようございます。まずは自己紹介から。俺の名は達太。その雪だるまのモデルだ。」
「小学4年生なのに、もう女性としての優しさを手に入れている君たちは立派なお嫁さんになれるよ。」
そう話しかけてやるのだ。
しかし、俺は、やかんから湯気が消えていることに気付く。
お湯が、水に、変わった。
俺はショックを受け、彼女らの冷たい手に、まさか水をかけるわけにはいかず、
ーーそんな紳士的ではない事を、俺の中の正義が許すはずが無い。
しぶしぶ引き返す。
帰り道、俺は五目麺を手配していたことを思い出し、暖かい気持ちとなる。
雪ダルマ達太、および小学4年生に、
じゅて~む
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