じゅて~む エッセイ編 第50夜
【あらすじ】
N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。
タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。
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年賀状を書きながら、俺は恐ろしいことに気付いてしまった。
来年は丑年だ。
丑、つまりは牛。
牛丼が流行るかもしれない。
ついでに牛乳も流行るかもしれない。
12年前にも丑年はあったはずだ。
違うか?
俺の勘違いか?
12年前にも丑年があったような気がしてならない。
2009年。
調べたら丑年があった。
俺は2009年のニュースを調べて、驚愕する。
エッセイのためとはいえ、反省する。
イチローと松井がアメリカ大リーグで活躍したことと、オバマ大統領がノーベル平和賞を獲得したこと。
他は、悲しいニュースばかりだ。
興味本位で2009年を調べることはお勧めできない。
「2009年 牛丼 流行」
で検索しても、同じような10大ニュースが紹介される。
検索ワードに牛丼があるにも関わらず、不穏な文字が並ぶ。
その中で明るい文字といえば、「イチロー」「松井」「オバマ」のみ。
「牛丼」の文字が無い。牛丼で検索したのに、何故。
俺は平和を願い、性善説を大真面目にプッシュするエッセイストとして、
一応、試しに、
「2009年 牛乳 流行」
でも検索してみる。
すると、どうだろう。
悲しいニュースは、だいぶ後の方に表示されるようになった。
PCも「牛乳が流行??」と困惑したのだろう。
平成のヒット商品や、ナタデココなどの文字が並ぶ。
俺は勇気づけられた。
世の中、捨てたもんじゃない。
俺は胸を撫で下ろす。
つまり、俺の胸は、俺の腹に近づく。
俺の腹は立派であるため、それはとても健康に良いだろう。
しかし、俺が、牛丼ではなく牛乳に救われるとは。
皮肉なもんだ。
俺は更に2009年の悲しいニュースらに打ち勝とうと、台所へ走る。
正確には走らない。億劫そうに歩く。
PCも、俺と牛乳のタッグの前では困惑することがわかったからだ。
俺は牛乳を飲み、牛乳に俺の腹に入ってもらう。
俺の腹と牛乳は、PCの前に戻る。
そして、
「2009年 牛乳 身長」
で検索してみる。
するとどうだ。
身長と牛乳のサイトばかりが表示された。
悲しいニュースどころか、2009年の文字すら見当たらない。
検索ワードの一番先頭に2009年とあるにも関わらずだ。
俺の腹と牛乳の圧勝だ。
俺は、神妙な気持ちで牛乳をコップ1杯飲む。
そして思う。
白くて冷たい、栄養と優しい味わいしか無い・・・牛乳。
俺は、家を飛び出し、車に乗り込む。
今日は土曜だぞ?
牛乳を腹に入れ、最高タッグと満足する、それでいいのか。
牛乳を嫌いになったわけではない。
物足らないんだ。
にも関わらず、
牛乳は2009年の、世界同時不況だとか侵攻だとか発射だとか破綻だとか死去だとかパンデミックだとかの文字を、見事に消してくれた。
牛乳はイチローであり松井であり、オバマであり、俺の腹の一部だ。
急げ。
そんな牛乳に地味な想いをさせてはならない。淋しくさせてはならない。
焼きそばパンと、コロッケパンと、カツサンドと、あんドーナツと、カレーパンで、牛乳の地味さを盛り上げるのだ。
パンの味がわからないくらい、おかずや油の効いたパンを、牛乳にプレゼントしてやるんだ。
もちろん、PCは付けたままだ。
そうすることで、防犯になる。
音のしないPCであっても、つけっぱなしであればテレビと同じく防犯だ。同じ画面だろ。
もちろん、牛乳は口に含んである。
急いで家を出るときに、牛乳パックを小脇に抱え、車を発進させると同時に、口いっぱいに含んだのだ。
白くて冷たかった牛乳が、白くてぬるい物に、間もなく変化するだろう。
ますます地味になる。
急げ。
×
パン屋には、牛乳にプレゼントするにふさわしいパンが並んでいた。
俺は一応、俺の分と、牛乳の分と、2個ずつ同じパンをトレイに乗せる。
今、俺を笑わす奴がいたら、そいつは返り討ちに逢うだろう。
俺の紫色の唇から、ぬるい牛乳が鮮やかに噴き出す。
平和の象徴の飲み物。
そして、パン屋が困るだろう。
居酒屋でもないのに、客が床を汚すとは。
俺は牛乳を口に含んだまま、パンを買った。
よくよく考えれば、そんなことしなくて良かったのかもしれない。
パンを食べる前に、口の中の牛乳が邪魔で、結局ぬるい牛乳を、ただただ飲み込むことになったし、
パン屋の店主は俺を見て、最初笑いそうになり、そのあとは目を合わせてくれなかった。
俺は1万円札を出したのに「大きいのしかなくって、すみません。」と言えなかった。
どんよりした目で、店主を見つめ詫びを伝えるしか無かった。
(それでも店主とは目が合わなかった。)
外出中に、口に牛乳を含むことは、強く深く、お勧めしない。
家に帰り、俺はゆっくりと、腹に牛乳とパンを入れてやった。
PCに向かい、
「2009年 牛乳 牛丼」
で検索。
身長に関する記事や、畜産のサイトが並んだ。
無敵となった俺は
「2009年 牛乳 牛丼 悲しいニュース」
と、入力、検索、どきどきしながらカレーパンを一口で食べる。
するとどうだ。
牛丼値上げと、牛鍋丼で巻き返す記事が表示された。
俺はとても嬉しい。
もし万一、2021年に悲しいニュースが横行しても、気にするな。
牛乳を口に含んで、パンを買い込みに行こうじゃないか。
じゅて~む
※今回半分ノンフィクション。試してみるもお勧め。ただ、ノンフィクション部分を誤ると大変。
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